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『感染の令和』と紅い女神【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」33

 

◆天使のような少女時代

 

 紅い女神が生まれたのは敗戦直後。

 天使のように清純な、透明感のある少女でした。

 現在の姿と区別するため、こちらは「天使娘」と呼びましょう。

 

 かつてわが国は、「富国強兵」という神に治められていました。

 なかなか勇壮だったそうですが、アメリカから来た白い神と戦ったあげく滅んでしまいます。

 その際、日本人も甚大な被害を受けました。

 

 あんな神を信じたのが間違いだったんだ!

 これからは、平和を愛するたおやかな女神を信じて生きよう!

 戦後平和主義、もとへ天使娘はこうして生まれます。

 

 けれども天使娘、誕生直後から悩みを抱えていました。

 親が誰だか分からないのです。

 日本を治める女神である以上、富国強兵の娘となりそうなものですが、アメリカの白い神、つまりマッカーサーの娘のようにも見える。

「白い神が、日本の女をレイプして生ませたハーフではないか」と言う者もいれば、「ハーフはハーフだが、あれはレイプではなかった。合意はなされていた」と反論する者も。

 

 しかし、ある点だけはハッキリしていました。

 富国強兵の娘であろうとなかろうと、富国強兵のようになってはいけないということです。

 また戦争が起きてしまうではありませんか。

 

 天使娘に求められたのは、「国家」自体を否定すること。

 戦争は国家の行為なのです。

 国家を肯定するかぎり、いかに愛らしい顔をしていようと、いずれ富国強兵のようにならないとも限らない。

 

 けれども国家を否定しつつ、国を治めるのはどだい無理筋。

 これだと戦後日本は、始まる前から終わるというか、「あらかじめ失われた国」になってしまいます。

 天使娘としてもつらいところですが、はじめのうち、これは大して問題視されませんでした。

 なぜか?

次のページ白い神、後見人となる!

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以下、佐藤健志著新刊『感染の令和   または あらかじめ失われた日本へ』の目次を公開。

 

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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