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「GIGAスクール構想」実現のために考えたい「いじめとタブレット」問題

第96回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■「いじめ」の原因をICT端末にしていないか

 文科省は今年3月12日付で、「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」という「通知」を各都道府県教育委員会などに向けて出している。
 そこには、「1人1台端末」を活用していくために必要なチェック項目が記されている。貸与された端末等を児童が大切に扱うためのルールを明確に作成し、「保護者・児童生徒に共有されているか」などが並んだチェックリストもある。

 さらに、「端末・インターネットの特性と個人情報の扱い方」という項目があり、「自分にとって危険な行動や他人に迷惑をかける行動をしないように、端末やインターネットの特性と個人情報の扱い方を正しく理解しながら使用することが重要であること」と記されている。
 そして「留意点の例」のひとつとして、「他人を傷つけたり、嫌な思いをさせることを、ネット上に書き込まない等」とある。女子児童の自殺につながってしまった端末のチャット機能を利用したいじめは、まさに「他人を傷つけたり、嫌な思いをさせることを、ネット上に書き込む」行為でしかない。

 萩生田文科相が「極めて残念な事実」という発言には、文科省として留意するように指示していたにも関わらず、懸念していた事態が起きてしまった、との気持ちが含まれているのかもしれない。文科相や文科省にしてみれば、「言ったではないか」との思いなのだろう。
 だから「周知する」とつながっているように思える。「他人を傷つけたり、嫌な思いをさせることを、ネット上に書き込まない等」を、さらに周知させていくということである。

 ネット上での書き込みが女子児童の自殺につながったことを受けて、文科省は「周知する」ために、さらに細かい指示を書き込む予定なのだろうか。それとも各自治体、教育委員会、学校ごとの細かい規則をつくるように指示していくのだろうか。
 いずれにしても、「他人を傷つけたり、嫌な思いをさせることを、ネット上に書き込まない」ようにさせるための細かい規則づくりが行われるだろう。それを守らせるために、学校現場では徹底した「指導」が実施されていくに違いない。

 細かい規則や徹底した指導によって、GIGAスクール構想で児童に貸与された端末が「他人を傷つけたり、嫌な思いをさせる」ことに利用されることはなくなるかもしれない。完全になくなるとは思えないが、少なくとも減ることにはなるはずだ。
 それによって、GIGAスクール構想による1人1台端末が批判される可能性は小さくなる。学校のタブレットがいじめの温床、と言われる可能性も小さくなるはずだ。構想を推進していくためのネガティブな要素は少なくなる

 しかし、1人1台端末によって貸与されているパソコンやタブレットがいじめに使われなければ、それでいいのだろうか。そうなったとしても、残念ながらいじめ自体は無くならないだろう。いじめの原因が根本的に解決されない以上、いじめは学校の大きな問題として残り続ける
 貸与した端末がいじめに使われないようにすることは大事なことではあるが、そこばかりに焦点をあてすぎると、いじめという大きな問題を見過ごしてしまうことになる。町田市の女子児童自殺によって考えなければならないのは、いじめそのものを無くすことである。
 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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