誰かが言った。多重債務者の人生の悲劇は一つしかない。それは「金のない悲劇」。世の中は金だ。借金がさらなる借金を生む———2010年6月の改正貸金業法(上限金利引き下げ・融資は年収の3分の1の総量規制)以来減少した多重債務者が19年、120万人へと再び増加に転じた。特にスマホ決済キャッシュレス化時代で20代の若者の無担保ローンが増えている傾向にある(日本信用情報機構調べ)。今回、「借金」の現場に立ち会う二つの異なる立場の論客を迎え対談。“お金を貸すこと”を営む「街金」業者で書籍『ぼく、街金やってます』の著者テツクルさん。もう一方は、“お金を借りた人”の相談・整理・交渉をする司法書士・杉山一穂(司法書士法人杉山事務所、代表社員)さん。ともに幾多の債務者を相手に、まったく違った角度で接してきたお二人に、人を翻弄する「借金」と「お金の魔力」について語ってもらった。
(左)「街金」経営者テツクル氏(右)「司法書士法人杉山事務所」代表司法書士杉山一穂氏

◆多重債務者は借金する努力している!

テツクル氏(以下「テツクル」)*「最初に、結構誤解されている方が多いので説明します。マンガのイメージかもしれませんが、街金闇金はまったくの別物です。街金は、国や都道府県に貸金業者として登録(許認可)された小口金融会社です。

*【テツクル氏】・・・20代より金融業に携わる。福岡と東京で修行し、現在、池袋で金融業(街金)を経営。この道20年を超えるベテランで、自分が金融業に入るきっかけを書いた自叙伝『ぼくと街金』(note)が好評を博す。『ぼく、街金やってます: 悲しくもおかしい多重債務者の現実』の著者

杉山一穂先生(以下:杉山)*「司法書士と同じで、2010年6月以降は貸金業務取扱主任者の国家資格が必要となっていますよね」

*【杉山一穂先生】・・・全国8カ所の事務所で多重債務者から月に3000件以上の相談を受ける。消費者金融の過払金請求やカードローンなどの多重債務整理で実績を上げ、『週刊ダイヤモンド』誌から、「消費者金融が恐れる司法書士事務所」として、過払金回収額全国1位として選ばれた実績を持つ

テツクル「そうです。法律の範囲で上限いっぱいでお金を貸しています。取り立ても法の範囲内です。『おいこら!内臓(自粛)売るぞ!!』『マグロ船(自粛)の乗るか?』みたいな脅しは、一発でアウトです。念押します。法の範囲内です」

———2010年6月の改正貸金業法以来、この10年で400万弱の多重債務者が2年前には115万人まで減少しましたが、昨年、120万人と増加基調へと再び転じました。実際に杉山先生に「多重債務」の相談に来る方はどんな問題を抱えているのでしょうか?

杉山過剰な浪費でいつの間にか返済に手が回らなくなった方が多いです。一般的に債務者の方の原因は世間で言われる“飲む・打つ・買う”のどれか、もしくは複合が多いです。基本的に最低賃金は決まっていますし、平均収入レベル(441万円 *「平成30年度国税庁民間給与実態調査」より)あれば、生活が回らないほどお金で困ることはないはずです」

———借金には何か「魔物」が働いているのでしょうか?

杉山です。身の丈にあわないほどの。実は私のところに来る相談者=多重債務者には二つのパターンがあります。

 【多重債務者「相談」二つのパターン】
 ①ふつうの会社員の濫費のケース
 ②事業主の自転車操業のケース

 前者は、文字通り「濫費」です。例えば、子どもの頃、お年玉とか月のお小遣いを貯めて、欲しいものを買う。入金よりも出金をコントロールし、貯金してから買いますよね。でも、借金する方は貯金する前にどんどん先に買う『習慣』になっています。現金はもちろんクレジットカード上限金額いっぱいまでトコトン使い続ける方もいます。
 かたや後者は、テツクルさんの主要取引先のような事業主です。客観的にみると、すでに商売として破綻しているケースが多いです。『従業員のために』という気持ちや『借金を挽回したい』という経営者の熱意が新たなる借金を重ねるという悪循環です。一生懸命頑張るほど借金を作る。最後は自分の今、住んでいる家まで失うこともあります。本当は、いかに多重債務を重ねる前に損切りして『事業を止めるか』という選択ができなかったことが問題を深刻化させています」

テツクル「ぼくのところに来る人は、ほかのところ(街金)で借金を重ねている最終段階の多重債務者が来るので、資金の計画が立っていないとか、将来的なビジョンがまったくない方が多いです。つまり、計画性がなく、だらしない方が多いですね」

———お金には「人を迷わす魔性の力」があるんでしょうか?

テツクル「哲学的な質問ですね(笑)。私自身もお金の本質についてはいつも考えるんですが、正直よく分からない。ただお金で世の中のだいたいのことは解決できますよね。やっぱりみんながそのお金の力に惑わされてしまうのは気持ちは当然わかるんですけど、難しいですけどね。ぼくが身をもって知っているお金とは、『借りたものは返されるべきで』、『借りる金額に見合った担保(不動産)を設定』し、『返せなければ、担保物件を剥がして溶かして回収』するという単純な原理です。およそフィンテックの世界ではなく、生臭い現金の世界です(笑)。ですが、杉山先生がお話したされたように『もう詰んでいるのに頑張れば、なんとかなる』と思って借りる方も多いですね。もちろん私は債務者から担保が取れれば、いつでも担保分は貸しますが……。お金とは、あくまでも私の定義ですが、債務者の持ってる担保、すなわち貸し出し上限の信用と意味付けることはできるかもしれません」

杉山「たしかに世の中、お金があれば“ほぼほぼ”欲しいものを手に入れることができるかもしれませんね。例えば、私は野球とサッカー観戦が好きなんですが、それとは別に世の中には、テニス観戦が好きな人もいる。いろんなスポーツの選択肢があるなかで、テニス好きの人は、あえてサッカーも観に行く必要はないですよね。そもそもお金がかかるし。つまり、自分の興味がはっきりしている人は、その範囲の中で上手いこと楽しむことができるわけです。逆に言えば、興味のあること以外はやらない。何かを選択することは、何かを捨てているわけです。
 でも、多重債務に陥る人の傾向として、なんでも欲しがってしまう。さほど欲しくないのだけれど、他人が欲しがるモノを買うとかわざわざ「借金をする努力」をしているように思えるくらいです。事業についても『商売って自分で起業して絶対しなきゃならないわけではなくてプロのサラリーマン人生をやっていればいい』という選択もあるわけです。まず、借金をすることに頑張らないこと!
 たとえ失業しても日本の場合は生活保護で食べられるわけですから、本当に困った時でさえもお金を借りる必要ってないはずです。でも見栄や欲望を満たすために、借りて使ってしまう。だいたいの人はその借金の壁“金利”を払ったら乗り越えられるものとしてとらえています。お金の魅力でその壁の高さを見誤って借金をふくらませていっていると思います。本当にやらねばならないことは何か? それって本当にやりたいのか? 自分と向き合うことが大事です」

テツクル「先生、熱血漢ですね(笑)。たしかに生活する、ただ生きるだけなら借金はしないのかもしれないと思ったことがありますね」

杉山「そう、野垂れ死にすることなんて、今の日本では絶対にないですよ。“暮らす”以上のことをせず、カッコつけずに『助けて!』と誠意を持って伝えられることができればいいのです。
 昔は生活保護受給日なんかには、金融屋さんが並んでいましたよね、取り立てのために。生活保護を受けている人でも金を借りてしまう

テツクル「そうなんですよね(笑)。最近“過払い金”などが話題になっていますが、あれは多少返す額の緩和になったように聞こえますが、金利に上限が低くなった、ならないというのに関係なく、返せない人は返せないんですよね」

杉山「目的と計画があればいいんですが、大体が自転車操業になってしまう。繰り返しになりますが、生活は借金をしなくてもできると思いますので、どうしてもお金が必要になるときのために、なにかしらの蓄えをしておくべきだと思います」

次のページ 損するほどリスクが高い選択をする債務者の行動