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【一斉休校無し? 抗原検査キット?】コロナ禍での新学期で学校と子どもたちはどうなるのか

第93回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■検査〜感染発見は誰の仕事なのか

 8月20日は菅義偉首相が、児童や生徒の感染拡大を防ぐためとして、感染の有無を調べる「抗原検査キット」を小中学校に配布する方針を示した。その決定の席には、田村憲久厚生労働相と共に萩生田文科相も同席している。
 感染予防に務めるだけでなく、学校が感染発見のために積極的に動くことが求められているのだ。「具合が悪くなった児童生徒がいた場合には直ちに検査する」というが、「具合が悪い」の定義は曖昧である。検査するかどうかは教員の判断に任されるわけで、これまた負担の大きな仕事である。

 そうした検査は、当然ながら教員にとっては不慣れなものだろう。それを適切に行えるかどうか不安もあるだろうし、感染者と接触することにもなるので自らの感染リスクも高くなる。
 教員は学力の保証に加えて、福祉的役割、さらにはこのような業務まで負担させられることになる。そうした業務の全部が、ほんとうに学校や教員が果たすべき役割なのだろうか。

 学校で抗原検査キットを用いることについては、専門家から疑問が相次いでいるのも事実だ。26日に日本小児科学会と日本小児科医会が記者会見を開き、異論が述べられた。
『朝日新聞デジタル』(8月26日付)によれば、日本小児科医会の神川晃会長は「プライバシーを守るため保健室で検査をするとして、陽性の場合に子どもはずっと保健室にいることになるのか。子どもは自分の鼻に(検査用の綿棒を)突っ込むのは恐怖感を持ち、鼻血などのアクシデントも想定される。コロナ対策に必死の学校の先生にさらに大きなストレスをかけることは妥当なのか」と疑問を投げかけたという。

 こんな状況で2学期が始まれば、かなり混乱した状況が生まれる可能性は高い。だからこそ、文科省が「地域一斉の臨時休業」には消極的にも関わらず、地域一斉の臨時休業に等しい夏休みの延長に踏み切る自治体も多くなっているわけだ。
 自治体が自分の頭で考えた結果、文科省の思惑とは違う方針を取り始めているとも言える。

 そして文科省は近く、臨時休業の判断基準となるガイドラインを示すことを決めた。「これまでは自治体が保健所などと相談して判断していたが、保健所が逼迫して調査が追いつかないため、感染者数や感染状況など休校する際の基準を示し、自治体が学校と相談して判断できるようにする」(『朝日新聞デジタル』8月25日付)という。

 全国一斉の臨時休業要請はしないし、地域ごとの臨時休業にも慎重な姿勢を強調してきた文科省が、保健所に相談しなくても臨時休業に踏み切れるようにしようとしているわけだ。そのために学校現場はさまざまなデータ提出を求められるようになる可能性は高く、教員はさらに多忙を極めることになりそうだ。
 それほど学校での新型コロナ感染は逼迫した状況にあるということなのか。それにしても、何か困ったことがあれば、その対応を学校現場に求めてくる姿勢だけは変わらない。新型コロナをめぐる学校現場の混乱は続きそうだ。

 

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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