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幻想が現実に打ち勝った「東京五輪」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」32

2020東京五輪閉会式での小池百合子都知事。

 

◆五輪さえ開催すればコロナに勝てる!

 

 ピンポーン!

 「五輪さえ開催すれば、コロナに打ち勝ったか、少なくとも負けていないことになるはずだ」という倒錯に陥るのです。

 政府ばかりか、東京都、あるいは大会組織委員会が、そろってこの発想に取り憑かれていたのは、開催にいたるまでの経緯からして明らか。

 現に小池東京都知事は、五輪開催の数日前の段階で、BBCのインタビューでこう発言しています。(動画つき)

 

 【何も開催しないということは、より悲しいことだというふうに思います。COVID-19に負けたっていう、そういったことは世界に知らしめたくない。こういう中であっても、東京で開催をするという意義がある】

 

 開催を中止すれば、コロナに負けたことになる。

 それは開催して感染爆発が起こるより、さらに悲しい。

 だから無理やりにでも開催する意義がある。

 そのものずばりですね。

 

 すなわち五輪が開催された以上、よしんば感染の爆発的拡大が起きていようと、われわれはコロナに負けていないことになる。

 緊急事態宣言下、感染が急増する中で行われた大会について、国民が熱狂したあげく、「安全でも安心でもなかったが、やって良かった」という爽快な結論に達するのも、無理からぬことではありませんか。

 2020年東京五輪、それは幻想が現実に打ち勝った証だったのです。

 幻想ではなく妄想とすれば、いっそう正確かも知れません。

 

 だが、そんな国に未来への展望はあるのか?

 この点をめぐっては、今秋にKKベストセラーズより刊行予定の新著『感染の令和』でじっくり論じます。

 今はとりあえず、18世紀イギリスの政治家・文人、エドマンド・バークの言葉を紹介しておきましょう。

 

 【(プライドの高い者が強い不満に駆られると)歪んだ感情によって心が混乱するせいで理性が狂い、矛盾だらけの誇大妄想に取り憑かれてしまう。

 第三者にしてみれば、この妄想は理解不能だし、彼ら自身、自分が何を考えているのか把握できなくなる。(中略)頭の中にはモヤモヤと霧が立ち込め、「物事は本来、すべて思い通りになるはずだから、そうならないのはみんなが結託して邪魔しているせいだ」などという錯覚に陥る。】

 (エドマンド・バーク著、佐藤健志編訳『新訳 フランス革命の省察』PHP文庫、2020年、108-109ページ)

 

 わが国は全体として、バークが述べたような状態になりつつあるのかも知れません。

 これを何と呼ぶか、お分かりですね?

 

 United by Delusion.

 妄想で、私たちは一つになるのです。

 

(了)

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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