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日本の文化的な夏の慣習〝お盆〞を知る

期間中に先祖の御霊を迎え、供養する。日本の農耕文化にも関連


「お盆」には先祖の霊が訪れ、現世の人々としばし時をともにするとされる。
厳粛な宗教行事にして、家族や親族の絆を深める文化的な慣習でもある。


盆棚
盆棚はお盆の期間中、帰って来た祖先の霊が宿る場所。ござや真菰(まこも)を敷き、季節の野菜や果物、花などを添えて丁寧にもてなす。

●ほおずき・笹竹
ほおずきは色や形が提灯を連想させることから精霊の道を照らすとされる。笹竹と一緒に飾ることも。

●お供え物
〝百味五果〞と呼ばれる、新鮮な旬の果物、野菜や、故人の好きだった食べ物などを供える。

●ナスとキュウリ
精霊が跨ってやってくる馬をキュウリで、荷物を引かせる牛をナスで作る。〝精霊馬〞と呼ばれる。

●真菰(まこも)の敷物
釈迦が真菰(イネ科の草)で編んだ寝床に病人を寝かせ、治療したという逸話にちなむもの。

●花
桔梗や萩などを飾ることが多いが、仏花、故人が好きだった花を飾ってもいい。棘のある花は避ける。

■感謝を込め、先祖の霊を供養する盛夏の一大行事

 お盆は先祖の霊を迎え、供養する行事。期間は旧暦の7月13日から16日で、現代の新暦では1カ月遅れの8月の同期間となり、東京など一部の地域を除きこの間に催されることがほとんどだ(東京は旧暦)。お盆は一般的に国民的な休日でもあり、盆踊りや灯籠流しなど地域ごとの風習とも融合した、夏の風物詩として定着している。

「お盆の起源は、目連上人(もくれんしょうにん)があの世で罰を受け苦しんでいる母親を救うために釈迦の教えで7月15日に供養をした、あるいは唐の時代に大陸で行商を生業としていたソグド人がその原型を中国に伝えたなど諸説あります。いずれにしても旧暦の7月15日に行われる仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)という行事が基となり、そこに庶民の、先祖の霊を敬う風習が取り込まれることで室町時代以降、いわゆる現在のようなお盆という形態に発展したという経緯があります」

 新谷さんはまた、お盆は日本古来の農耕文化とも密接な関係にあるという。

「お盆の期間は、農家にとって田植えが終わった頃の中休みにあたります。七夕、あるいはそれ以前の様々な禊の行事と一連で湿潤な気候がもたらす様々な汚れを祓い、収穫の秋に向けて心機一転する節目でもあったようです」

 盂蘭盆会という仏教の行事が庶民の生活様式や信仰と相まって、地域ごとの特色をもちながら民俗的な慣習へと発展した。一時的に里帰りした先祖の霊が滞在する「盆棚」は、それを象徴するもののひとつだ。

「お盆には、初日に迎え火で先祖の霊を迎え、以降はこの期間のために設えた盆棚に祀って供養し、15日にはお経をあげます。最終日には送り火で送り出しますが、地域によっては霊を笹舟などに載せて川に送り出す灯籠流しなどが行われる場合も。お盆の出自は中国の仏教も関連しており、歴史や意義、慣習などを一元的に解説することは難しいのですが、現代では先祖を供養し、久々に集まった家族や親族と先代の記憶に思いを馳せることで連綿と続く命の尊さ、さらには自然の恩恵にも感謝する、日本人の心の拠りどころとなっていることは確かです」

 盆棚には旬の果物や野菜、草花といった自然素材を贅沢に使い、先祖の霊に快適に過ごしてもらおうという思いが込められているのだ。

 お盆には、お墓参りも欠かせない。

「大切なのは、厳かに先祖の霊を敬う気持ち。地域ごと作法が異なるため、当地の慣習を尊重し、失礼のないように心がければ大丈夫です。今、自分がこの世に在ることのありがたみを意識することが肝心。コロナ禍で人と人の関係が断絶し、孤立しがちな今こそ、大切にすべき年中行事のひとつです」

一個人2021年夏号より抜粋)

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新谷 尚紀

しんたに たかのり

國學院大學大学院 客員教授

国立歴史民俗博物館名誉教授。国立総合研究大学院大学名誉教授。民俗学者。1948年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学科卒業、同大学院博士過程修了。主な著書に『和のしきたり 日本の暦と年中行事』(日本文芸社)『日本人の春夏秋冬』(小学館)など多数。

 

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