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緊急事態宣言下で実施される『全国学力テスト』の是非を問う

第78回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

感染リスクの高い現状、文科省の調査のために「全国学力テスト」が悉皆方式で行われる予定だ

 依然として新型コロナウイルスへの感染リスクが高い現況下において、悉皆方式の全国学力・学習状況調査(通称「全国学力テスト」)が5月27日に行われる。かねてより、実施意義や課題に対する様々な意見が聞かれる中での今回の判断について、文科省の見解を検証していきたい。


■保護者や自治体の不安は拭えない

 全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)が、5月27日に行われる予定だ。東京、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の6都府県において、5月31日まで新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が続くことになっている中、萩生田光一文科相は5月11日の閣議後記者会見で、「予定どおり実施したい」と話している。「異例の判断」とも言える。
 続けて、「学校においては、感染症対策を徹底しつつ教育活動が継続的に行われていること、また、コロナ禍における児童生徒の学力・学習状況を把握するという本調査の重要性などに鑑み」と、その理由についても述べている。

 しかし、「教育活動が継続的に行われている」とあるが、4月7日のNHK「クローズアップ現代」は「1度でも自主休校した児童・生徒は全国に7,000人以上いることが分かった」と報じている。学校での新型コロナ感染リスクを根拠に、本人・保護者の判断で学校を休んでいるのが「自主休校」である。
 実際、文科省が今年2月26日に発表したところでは、昨年6月1日から今年1月31日までに児童生徒で1万2,107人、教職員1,586人の感染が報告されているという。

 その対策として、学校行事を延期、または中止としている学校も多い。それに、理科の実験など人と人との距離が近くなる授業が見直されたり、水泳などの科目を中止しているところも少なくない。そうした実情も踏まえて、萩生田文科相は「感染症対策を徹底しつつ」というが、現状は「徹底している」とは言えない状況である。
 3密(密閉・密集・密接)を避けるようにと指示しながら、分散登校や分散授業が行われていない状況下での学校生活が続けられている。だからこそ、感染を懸念しての自主休校が存在しているのだろう。
 萩生田文科相の言う「継続的な活動」は、密な状態の教室での授業についても同様なのだ。

 同日の記者会見では、記者から「自治体からは実施を心配する声もある。やりたくないという意見は認めるのか」との質問もあった。緊急事態宣言の最中、自主休校もあるような状況で全国学力テストを実施することに、疑問を持つ自治体が存在するのは当然である。
 それに対して萩生田文科相は、「嫌だと言ったから、止めていいですよというわけにはいかない」と答えている。これは自治体の不安を無視する回答と言えるだろう。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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