モオツァルト、宮本武蔵、イチローはなぜ凄いのか?天才が気づいていること【中野剛志×適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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モオツァルト、宮本武蔵、イチローはなぜ凄いのか?天才が気づいていること【中野剛志×適菜収】

「小林秀雄とは何か」中野剛志×適菜収 対談第3回

 

宮本武蔵(1584-1645)、江戸時代初期の剣術家、兵法家、芸術家

 

「意は似せ易く、姿は似せ難し」

 

適菜:小林が言いたいのは、結局、「型」はすべてにあてはまるということです。言葉や概念により、漏れ落ちるものを「型」をとおして「馴染む」ということです。型、姿、フォーム、トーン、文体、顔、立ち居振る舞い、箸の持ち方……。こうしたものが軽視され、概念、内面性、抽象が重視されるのが近代社会です。近代人はオリジナリティや独創を重視するけど、小林に言わせればアホの極みですよ。実際の物事にぶつかり、物事の微妙さに驚き、複雑さに困却し、習い覚えた知識など肝心かなめの役には立たないと痛感する経験を通してでしか、独創性に近づくことはできないと小林は言っています。

 

中野:そうですね。小林は本居宣長の言葉を引いてますよね。「意は似せ易く、姿は似せ難し」と。普通は逆に捉えるけれど本当は、姿の方が似せにくいんだよ、と。要するに、抽象的な言葉による意味だったら簡単に人に伝えられるけれども、個別の状況の下にある自分の実体験なんてものは、どうやっても伝えようがないじゃないか、と。

 

適菜:文体も顔も品も誤魔化せない。自ずとにじみ出てしまう。だから小林はそこを重視したんですね。

 

中野:そう、文体は誤魔化せないんですよ。恐ろしいですねえ。私が関心のある政治学で言うと、理論と実践について小林が語るところが面白いんです。小林を理解するうえで重要なのは、丸山眞男みたいに「小林は理論を否定した」と考えてはいけなくて、小林は「理論というのは、実践行為の中にあるんだ」と言ったということを押さえることです。実践は個別具体的なものだが、そこに理論がないわけではないということです。

 例えば、小林は宮本武蔵に感心するわけです。宮本武蔵が書いているらしいんですが、なぜ自分は一回も負けなかったかと。それは、精神とか兵法ではない。俺がなんでずっと勝ち続けたかというと、手先が器用だったからだと。単にそれだけ(笑)。なんか奥義とか極意とかって言って物々しく出てきた奴らが、手先が器用な俺に斬られてる、と。この話に、小林は感動するわけです。要するに、高尚な哲学めかして「理性」がどうたらとか「真・善・美」とか言ってるやつは、まったくダメだということですよ(笑)。

 

適菜:理性万能主義や「真・善・美」といった発想の危険性を指摘したのが小林です。小林は批評も手の技だと思っているので、宮本武蔵の手先の器用さに注目したのでしょう。小林はモオツァルトに関して、《大切なのは目的地ではない、現に歩いているその歩き方である》(『モオツァルト』)と言いましたが、これは小林の自画像です。大事なのは手つき、タッチです。手の技が仕事を生み出すのです。

 

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●目次

はじめに———デマゴーグに対する免疫力 中野剛志

第一章
人間は未知の事態に
いかに対峙すべきか

第二章
成功体験のある人間ほど
失敗するのはなぜか

第三章
新型コロナで正体がバレた
似非知識人

第四章
思想と哲学の背後に流れる水脈

第五章
コロナ禍は
「歴史を学ぶ」チャンスである

第六章
人間の陥りやすい罠

第七章
「保守」はいつから堕落したのか

第八章
人間はなぜ自発的に
縛られようとするのか

第九章
人間の本質は「ものまね」である

おわりに———なにかを予知するということ 適菜 収

 

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中野剛志/適菜収

なかの たけし てきな おさむ

中野剛志(なかのたけし)

評論家。1971年、神奈川県生まれ。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“TheorisingEconomicNationalism”(NationsandNationalism)NationsandNationalismPrizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『日本経済学新論』(ちくま新書)、新刊に『小林秀雄の政治哲学』(文春新書)が絶賛発売中。『目からウロコが落ちる奇跡の経済学教室【基礎知識編】』と『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)が日本一わかりやすいMMTの最良教科書としてベストセラーに。

 

 

適菜収(てきな・おさむ)

作家。1975年山梨県生まれ。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム近代的人間観の超克』(文春新書)、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』、『国賊論 安倍晋三と仲間たち』『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』(以上、KKベストセラーズ)、『ナショナリズムを理解できないバカ』(小学館)、最新刊『コロナと無責任な人たち』(祥伝社新書)など著書40冊以上。「適菜収のメールマガジン」も配信中。https://foomii.com/00171

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