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作家・柳美里氏が自宅をブックカフェに

出版業界紙「新文化」1月18日号より

■作家・柳美里が自宅をブックカフェに

 芥川賞受賞作家の柳美里氏が、福島県南相馬市小高区にある自宅をブックカフェに改装して、4月中旬までに開店しようとしている。

「フルハウス」と名づけるブックカフェは、自宅の一室を地元住民に開放して、柳氏が選んだ書籍や雑誌、コミックスなどを閲覧できるようにする。住民はそこで購入することもできる。

 それらの商品を仕入れるために必要な資金約400万円は、クラウドファンディングで募っている。現在まで約170人から300万円以上が集まっているという。

クラウドファンディングで資金を募っている。画像はトップページ。

 本だけでなく、文具や雑貨も販売し、10月には倉庫を改装して小劇場もつくる計画だ。さらにヨガ・英会話・料理などの教室も運営していく。

 この構想については、日本出版販売の平林彰社長とも会って相談、同社と取引をすることを決めている。

 自宅のあるこの地域は、2011年3月に起きた原発事故により「警戒区域」に指定され、放射能汚染地区として有名になってしまった。16年7月に避難指示は解除され、JR常磐線も復旧した。事故前、同地区には約1万2800人が住んでいたが、帰還した人はわずか2割の2300人。そのうち約6割が65歳以上の高齢者で、自炊できず、毎日コンビニ弁当を食べている人も少なくないという。飲食店もほとんどなく、書店も30分ほど歩かないと辿りつかない。カフェでは軽食だけでなく、温かい料理を振る舞うことも考えているようだ。

 運動部に所属する中高生たちは、午後9時過ぎの終電で帰ることも多い。人影のない場所で親御さんの迎えを待つのは危険で、怖い思いもする。柳氏にはそうしたことがないように、ブックカフェで本を読みながら、またはおしゃべりしながら待ってほしいという思いもある。

 ブックカフェは、そんな旧警戒地区を「世界で一番美しい場所」にしたいとの願いも込めて計画されている。

「幼少期にいじめに遭い、両親は離婚してしまった。これまで本があったから生きてこられたと思います。いろんな扉がある本屋さんは私にとって避難できる場所だった。この南相馬市でそんな住民の居場所をつくりたい」と柳氏。

 昨年12月には『春の消息』(第三文明社)と『飼う人』(文藝春秋)を上梓。都内の書店に足を運んで促進しながら、ブックカフェの準備を進めている。(「新文化」本誌1月18日号より転載)

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