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【コロナ禍で見えた知性の本質】どんな感染症にも向き合える心構え——考え続けること《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊾最終回》

命を守る講義㊾「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してたのが、昨年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである(シリーズ最終回)


■考え続ける

アルベルト・アインシュタイン(1879-1955):20世紀最大の物理学者と評された氏は若かりし頃、落ちこぼれであった。が、氏の知性は考え続けることで開花した(写真:パブリック・ドメイン)

 

 知性に対する信頼というのは、いわゆるエリート主義とは違います。
「学校のせいで勉強が嫌いになった」みたいな人は多いと思います。
 それでは日本の学校制度の何が問題かというと、「時間をかける」ことを許さないんですよ。

 多くの落ちこぼれがなぜ落ちこぼれるかというと、頭が悪いからではない。一学期はこれ、2学期はこれ、3学期はこれ、という学習指導要領に則って授業をしないといけなくて、理解する途中でぶった切られるから、落 ちこぼれさせられるんです。

「俺、まだ分かってないんだけど」と思っているところで「はい、次へ行きましょう」となるから分からなくな る、分からなくなるから諦めてしまい、「俺は頭が悪い」と思って、落ちこぼれてしまう。

 本当はできるようになるまで、時間をかけて待ってあげればいいんです。
 偏差値の高い大学に行くために、塾などでは学習のスピードを速めますよね。高校1、2年の段階で、もう3年生の分まで終わらせていて、3年になる前に受験勉強を始める。日本では受験で勝つためにはスピードが速い ことが一番。言ってみれば「スピード主義」なんです。

 スピード主義とは、言い換えると早熟ということでもあります。大学入試がゴールなので、そこまでに速く巻き上げた人が勝つ、巻き上げられない人は負ける。そういう考え方をして18歳で人生がアガってしまうわけです 。

 でも、ぼくはその考え方に与しません。たしかに理解にかかる時間は人によって違うけれど、理解のスピードの速い遅いは知性とは関係ない。

 アインシュタインだって学ぶのがめちゃめちゃ遅くて、学校ではだいたい落ちこぼれだったといわれてるじゃないですか。

 ぼくもじつは落ちこぼれで、子供のときに「特殊学級に行きませんか」と言われたこともあります。それはなぜかというと、理解が遅かったからです。

 例えば「分数の割り算は、ひっくり返して掛けろ」と言われたときに、「なんで、ひっくり返して掛けるんで すか」と、そこで止まってしまったんですね。
 速い人は「そんなことはいいから、とりあえずひっくり返してかけろ。答えが出るんだから、それでいいじゃ ない」と、さっさと割り切ってしまう。
 そこで「なんでひっくり返して掛けるのか、よく分かんない」と言って止まってしまう人は落ちこぼれるわけですが、でもそこで一生懸命考える人は、ゆっくりものを考える習慣が付く。そして、自分が理解できないこと 、納得できないことに対して、「納得できない」という自覚も湧くことになる。

 これは、より深い学びを得られるチャンスなんです。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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