【第3波を乗り越える】「ギリギリまで頑張る」リスクから「みんな違うことを認め、休む」安全へ! 余裕のある組織づくりへ《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊶》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【第3波を乗り越える】「ギリギリまで頑張る」リスクから「みんな違うことを認め、休む」安全へ! 余裕のある組織づくりへ《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊶》

命を守る講義㊶「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。


■「余裕を許さない」という病理

 例えばアメリカで仕事をしていると、ちょっと体調が悪いと「今日は休むから」みたいな話になるわけですが、日本人は病気になっても休みません。ちょっと風邪をひいたぐらいで休むとは何事だ、頭が重いぐらいで休むとは何事だ、みたいな社会になっている。

 職場もだいたい、人員的にギリギリな状態ですよね。本来は、いざというときのために余裕を持たせておくべきなんですよ。11人だけのサッカーチームなんてないでしょう? 誰かが怪我したり病気になったときのために、常にサブのメンバーを用意して、30人ぐらいのチームをつくっておくわけですよね。

 ところが日本の会社・日本の社会というのは、だいたいがギリギリで回しているから、一人欠けたら大ダメージになる。その結果、「絶対に休むな」みたいな感じになってるわけですよ。これは病院もそうです。ギリギリのところで仕事を回らせて、「遊び」がない。当然、いざというときの欠損に弱い。

 アリの世界には「働いているアリと遊んでるアリがいる」ってよくいわれますけど、「遊んでいるアリがいる社会」こそが、じつは正しい社会なんです。みんなが働いていて、ギリギリのところで歯を食いしばってないと維持できない社会って危ういですよ。

 そういう中で休ませない、休めない、休みたくない、休まない、のような雰囲気ができてしまうと、今回のコロナウイルスに感染して罹り始めの軽い症状が出ても、ついつい頑張って出社してしまう。そして周りに感染を拡げてしまう。

 感染が拡がったのが会社であれば、出社禁止になる。保育園であれば、保育園が閉園になる。保育園が閉じられてしまうと、今度はそこにお子さんを預けていたお父さんお母さんが働けなくなる、と被害がどんどん拡がっていきます。

 2020年3月下旬の段階で兵庫県では感染者が増えていますが、そのクラスターははっきりと分かっています。大阪のライブハウス、精神科の病院、デイケア、保育所、そして地域の基幹病院。この5つです。こうやって並べてみると、一番やられてはいけないところばかりがやられたちゃったんですね。

 病院がやられると、病院に関係する濃厚接触者がみんな休むことになる。基幹病院がやられたということは、医者や看護師が大勢いなくなるわけです。精神科やデイケアも同様です。

 本来なら、そういう施設こそ休めるような構造を持っていないといけない。「休めるような構造」というのは、要するに、みんなが余裕を持って働ける構造ということです。

 でも、「みんなが余裕を持って働く」状況をそもそも文化的に許容できないのが日本社会なんです。みんなが笑顔で、仕事に余裕を持って、夕方になったら帰ろうね、というのが許せない。どちらかというと、歯を食いしばってないといけないみたいな文化がありますよね。

 最近こそ、働き方改革などで変わりつつありますけど、昭和の世代には、「仕事とは、ギリギリのところでやるのが当然だ」と思っている人も多い。裏返すと、家のことは奥さんに任せておけばいいという発想ですよね。配偶者たちが働きに出て、みんなで重荷を分かち合ってみんなで楽になろう、という発想がない。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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