【第3波と向き合う】新型コロナウイルス問題を隠すことで得られる合理的な利得はないという中国の「社会(信用)観」【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊳】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【第3波と向き合う】新型コロナウイルス問題を隠すことで得られる合理的な利得はないという中国の「社会(信用)観」【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊳】

命を守る講義㊳「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。


■中国の新型コロナウイルスへの対応

コロナ問題において情報を隠蔽しない中国のスタンスは、「一帯一路」構想の条件——国際的な信用という合理的選択にある。

 

 今の中国政府は、地域の細かいところでは分かりませんが、現時点(本年3月)では中央政府の側は隠蔽はまずしてないと思います。
 というのも、中国は2002年から2003年のSARSのときに痛い目に遭っています。SARSのときに、中国がデータをかなり隠したから、世界は中国で何が起こってるかを全然知ることができなかったんです。その結果、中国はすぐ隠蔽する、データを出してくれない、ウイルスの情報を教えてくれないし、ウイルスのサンプルも分けてくれない、といろんなことをすごく批判されてしまいました。

 その後、中国はChina CDCを整備して、感染症対策はまず感染症のプロがやる、という体制をつくりました。
 2011年に報告されたSFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome=重症熱性血小板減少症候群)というウイルス感染や、2013年に報告されたH7N9(鳥インフルエンザA)という新しいタイプのインフルエンザウイルスなど、その後も中国では新しい感染症がどんどん起きています。

 でも、今回の新型コロナウイルスの流行こそ防げませんでしたが、それ以前の感染症は、専門家がちゃんと対応することで押さえ込むことに成功し続けていました。

 さらに、SARSのときに受けた批判への反省から、BBCなどで流れてくる中国の記者会見のときには、自分たちは情報の透明性・開示性を確保していることを必ずアピールしています。

 このように患者さんの検査をします、こういう病院を作ります、この地域は閉鎖します、これらの対応の目標はこうです、というようなことを、かなりアピールしてます。ですから新型コロナウイルスへの初期対応の失敗もちゃんと認めましたし、習近平は武漢の幹部を更迭したりしています。

 いま中国は世界一の経済大国になろうとしているわけですよ。経済大国としてアメリカに勝とうと思っている。
 経済大国になるために一番大事なことは、外から信用されることです、信用されない国は商売が成り立たせられないですから。だからこそ習近平は一生懸命、「中国は信用できる国だ」ということを外に示そうとしている。

 そのときに一番やってはいけないことは、隠し事なんです。

 「あいつは、ほんとは隠してるかもしれない」と思われてしまうと、当然ビジネスは成り立たなくなる。

 昔の中国は「物が安い」ということだけでビジネスをやっていたけど、今は中国人の生活レベルも高くなりました。安さでいうならば、ベトナムやカンボジア、ラオスやミャンマーで作ったほうが安いわけです。

「中国製は安かろう悪かろう」で勝負できたのは昔の話で、今の中国は、スマホとか車とか、とにかく品質で勝負しようとしています。スマホなんて日本のものより全然売れているわけですよ。

 だから、中国が今回のコロナウイルス問題を隠蔽することで得られる利得って、ほとんどないんですよ。

 実際に世界は、中国のコロナ対策、そして情報公開への姿勢をかなり高く評価しています。実績としても2020年3月の時点で中国は新規の患者数をすごく減らしていますね。

 2020年3月の時点で患者さんを押さえ込んでいると言われてる国は、中国、韓国とタイです。タイでも当初、50人ぐらい患者さんが出ましたけど、それ以降は全然増えていない。

 まだ減る余地が見られないのが、日本、イラン、イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、アメリカ、スイス、オランダ、イギリス、スウェーデン、ベルギー、ノルウェー、シンガポール、デンマーク、オーストラリア。香港でも増えています。つまり、多くの国は制圧できていない。

 データがよく分からない国もあります。アフリカや南米には、感染者1人みたいな国が結構あって、ブラックボックスになっている。実際にはもっといるんじゃないかと思うのですが。

 そこのところ、中国の感染者数はすでに8万人を超えてるわけですね。もう今さら、数を誤魔化してもしょうがないレベルでしょう。逆に言えば、8万を超えてなお誤魔化す合理性がない。

 中国人はよくも悪くもめちゃくちゃ合理的です。損得勘定が強いから、自分たちの得にならないことはしない。彼らは根っからの商売人なんです。

 2003年頃にぼくも北京に1年いましたが、とにかく得することはやるけど損することはしない、ドライな気質を肌で感じました。もちろん一概には言えないですけど、全体としてそういう性質が根底にある。

 日本には「損してでもやる」みたいなウェットなところがあるじゃないですか。それと比較すると中国はやっぱり、大陸的にも気候的にもドライだし、人間もドライなんですね。だから、データを隠す利得がない限りは、データを隠してもしょうがないと割り切ってしまう。もっとも、それは中国が全く隠し事をしない、という保証になってはいないのですが。例えば、人権問題など都合の悪いことにおいては容易に(経済的理由で)情報隠蔽してしまう可能性がある。ビジネスの阻害にならない限りにおいて。

 裏返せば、多分中国は、自分たちがコロナを制圧できつつあり、日本ができていない状況を上手に利用しようともしますよね。損得勘定でしかモノを考えないので、得になることは何でもする人たちですから。

「新型コロナウイルスの真実㊴へつづく)

 

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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