【絶望から希望へ:神戸刑務所編】 関東のヤクザを舐めんじゃねェぞ。今度、年寄りをいじめたりしたら、承知しねェぞ《さかはらじん懲役合計21年2カ月》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【絶望から希望へ:神戸刑務所編】 関東のヤクザを舐めんじゃねェぞ。今度、年寄りをいじめたりしたら、承知しねェぞ《さかはらじん懲役合計21年2カ月》

凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.32


 人は絶望からどう立ち直ることができるのか。
 人は悪の道からどのように社会と折り合いをつけることができるのか。
 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを
最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました実刑2年2カ月!
 じんさん、今度は神戸刑務所に3年間お世話になります。西の塀の中はお笑い劇場なみの面白さ。どん底でもどこか明るいそんな生活に気持ちが明るくなってきました。希望は、そんな「小さな面白さ」から育っていくような感じかもしれません。


■ジョージと幻聴オヤジ

 この検身所で、ボクは九州は博多出身のジョージという容貌魁偉(ようぼうかいい)な男と出会う。混雑する検身所で、何かの拍子でぶつかったのが、この彼だったのだ。

  狭い検身所では、気をつけていてもどうしても周りの懲役たちとぶつかってしまう危険度が高く、喧嘩になるケースも多かった。そんな中、ジョージはボクがぶつかったのにもかかわらず、嫌な顔一つせずに後ろのボクへ、その大きな身体をのっそりと捩って振り向くと逆に、「すみません」と言ってくれたのである。

 混雑していると、どちらからぶつかったかわからないから、「すみません」「失礼しました」とまず言うのが、懲役たちの礼儀であり、それがまた、自分の身を守ることに繋がるのだった。

 ジョージは5年半の刑期で、福岡からこの神戸刑務所へ護送されて来て間がなかった。
 背負ってきた事件の内容は定かではないが、自分の率いる総勢100名ほどの組織の会長だった。

 ジョージは在日だったが、祖父は日本軍の兵士としてゼロ戦に乗って戦った勇士で、「撃墜王」の称号を持っていたような、すごい人だった。博多では、父親がかなり手広く遊技場を経営していた。そんなジョージとボクはだんだんと仲よくなっていった。

 ある夜、部屋の仲間たちが寝静まる頃、ボクは痛み出した虫歯に悩まされ、その痛みと戦いながらまんじりともしないで一夜を過ごしていた。すると、胸に関東のテキ屋の代紋を彫っている幻聴オヤジが、突然かいていたイビキをとめ、
 「コラ! お前や! 何代目の悪口、言うてんのや!」と喚(わめ)き始めた。
 ボクは幻聴オヤジが寝惚けて何か言っているのかなと思い、布団の中から頭をもたげて、その様子を窺ってみた。
 幻聴オヤジは布団の上に上半身を起こし、首をもたげたボクを見ると、指を差して、「コラ! お前じゃ! 今、何代目の悪口、言うたやろ!」と喚いた。
 ボクは突然のことなので呆気に取られてしまい、初めは何のことか理解できないでいた。するとまた、ボクに向かって何やら喚き始める。

 ボクは歯が痛くてイライラしているのに、いったいこの野郎は何だと思い、
 「テメエのことなんか、何も言っちゃあいねェよ。この幻聴バカ!」と怒鳴ってやった。

 すると、普段おとなしくしているボクが予想に反して反撃に出たからなのか、そのバカも呆気に取られて、ハトが豆鉄砲喰らったような顔をしていた。そして、そのまま何も言わずに引っくり返って寝てしまった。

 ボクは、夜中だし、バカを相手にしてもしょうがないので我慢していると、幻聴バカは今度は即行でグーグーとイビキをかき始めた。

 イラッときたボクは起き出して幻聴バカのところへ行き、その耳元で、「この野郎、人に迷惑かけといて、今度はイビキか」と言いながら、平手でその額をペシッと叩いた。

 すると、幻聴バカがパッチリと目を開け、何か喚こうとしたので、ボクは手で口を押さえると素早く馬乗りになった。そして巡回してくる看守を警戒して廊下側に素早く〝テン〟を切ると、「この野郎、関東のヤクザを舐めんじゃねェぞ。今度、わけのわからねェことを言ったり、年寄りをいじめたりしたら、承知しねェぞ」と言って、鼻を思いっきりんでねじってやった。つい勢い余って、ボクはヤクザでもないのに格好つけた啖呵が口をついて出てしまったのである。

 この幻聴バカは、ときどき弱い年寄りを労(いたわ)らず、反対にいじめていた。だから、このときはちょうどいい機会だったのだ。
 ボクは、弱い者いじめをするような人間は、いくら強くても芯のところでは意気地がなく、根性なしの弱い人間だとわかっていた。
 その後、幻聴バカはおとなしくなり、短い刑だったため、すぐに三級房へ転房になっていった。

 

『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)

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 2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!

 新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。

 絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!

 「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。

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さかはら じん

さかはら じん

1954年生まれ(本名:坂原仁基)、魚座・O型。埼玉県本庄市生まれの東京育ち。幼年 期に母を亡くし、兄と二人の生活で極度の貧困のため小学校1カ月で中退。8歳で父親に 引き取られるも、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を 起こし横浜・練馬鑑別所。20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、 22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野・府中刑務所でデビューを飾る。28歳出所後、再び覚せい剤 使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。以後、府中・新潟・帯広・神戸・ 札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし。人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。回心なのか、自分の生き方を悔い改める体験を受ける。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場の墨出し職人として働く。人は非常事態に弱い。でもボクはその非常事態の中で生き抜いてきた。

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塀の中はワンダーランド
  • じん, さかはら
  • 2020.05.27