藤井聡京大教授「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」【緊急反論④:「効果の無い自粛」が多数あることが判明。以後、一律自粛を回避せよ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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藤井聡京大教授「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」【緊急反論④:「効果の無い自粛」が多数あることが判明。以後、一律自粛を回避せよ】

集中連載「第二波に備え「8割自粛」を徹底検証すべし」

■(6)「一律自粛」は無駄かつ有害。被害が少なく効果的な「半自粛」路線を採用すべし

 では、自粛の中でも唯一効果があると判定された「デパート等の小売り店舗や、様々な娯楽施設での活動の自粛」の自粛がどれくらい効果があるのかを確認しましょう。

 まず、GW中の活動の「内容」の変化によってもたらされた感染拡大スピード変化は「0.14」ポイントでした。
 一方で、この表2の分析より示されるのは、この0.14ポイントを下落させるために、「小売り・娯楽」活動をどれだけ自粛しなければならないのかと言えば、43%となります(=0.14÷003)。

 これを逆に言うなら、自粛せずに活動内容を工夫するだけ(例えば、パーティや宴会を控える、その際に食事の出し方や規模を工夫する、換気をする、目鼻口を触らないようにする等)で達成できる感染抑止を、西浦教授達が主張した「自粛」だけで達成しようとすれば、最も効果的な「小売り・娯楽施設」利用活動を自粛する場合でもその活動を実に43%も自粛しなければならない、ということを意味しています。

 さらに言うと、日常のスーパー利用や公園等でのアウトドア活動、職場での活動などをどれだけ自粛しても、活動内容を抑止するだけで達成できる感染抑制効果は得られない、ということも分析から明らかになっています。

 筆者はこれまで、西浦教授達が主張し、政府が採用した「一律の活動自粛」が如何に「無駄」であり、かつ経済を傷付けるだけで終わる「有害」なものだと様々に主張して参りました(例えば、https://38news.jp/economy/15951、学術的にはhttp://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/documents/criterion91_fujii.pdf、あるいは古くはhttps://www.youtube.com/watch?v=GrfbIYOlSTE等)。

 そうした主張に対して、様々な批判、時に激しい批難が差し向けられてきたのですが、筆者の主張の正しさが今回改めて統計データで支持されることとなったわけです。

■(7)感染抑止のために効果的な「自粛」戦略とは何か?

 以上、今回は日本のデータを使って、「自粛」には一体どの程度の効果があるのか、あるいは無いのか、について、できる限りのデータを使って検証してみました。様々な知見が得られましたので、最後に改めて今回の検証で分かったことを箇条書きしてみたいと思います。

―――――【今回の分析で明らかにされた知見】―――――
①感染対策上、意味のある自粛もあれば、意味の無い自粛もある。

②「公園の利用」「スーパー等での日常的買い物」「通常の勤務」等の行動は、自粛しても、十分な効果があるとは考えがたい。だから、これらの行動を、感染抑止のために自粛するのは得策ではない。

③ただし「非日常的な娯楽としての買い物」「娯楽施設の利用」等の行動は、自粛することの感染抑止効果が一定認められる。

④一方で、自粛して活動を辞めるかどうかというよりもむしろ、自粛せずにその代わり「行動の内容」を調整する方がずっと大きな効果がある。恐らく「長時間の会食、宴会、パーティ」において「給仕の仕方を工夫する」「集まる人数を減らす」「活動中に目鼻口を触らない」「徹底的に換気をする」「取りやめを検討する」「簡潔なものにする」などの対策を図ることの方が、感染を抑止する上で重大な意味を持つと期待できる。

⑤それにも関わらず「活動の内容」を無視して「一律自粛」だけで感染抑止を目指すと、ほとんどの活動を取りやめる程の「凄まじい自粛」を実施せざるを得なくなる(例えば、GWになっただけで上昇した若干の感染拡大スピードを抑え込むためだけにも、活動全体の43%もを自粛せざるを得なくなる)。しかしそうすれば、上記の①~④に示したように「無駄」「あるいは効果が薄い」行動自粛が多くあるため、さして感染抑止に効果が無いくせに、凄まじい経済被害だけが生ずる、という極めて不条理な帰結を迎えることになる。
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 以上の知見を全て踏まえれば、今後の感染症対策は、今回のような「一律8割自粛」でなく、「やらなくてもよい自粛をやらない」一方で、「効果的な自粛」のみをピンポイントで実効し、経済を可能な限り傷付けずに、効果的な感染抑止を行う事が得策であると考えられます。

 この結論は、これまで一貫して筆者が主張してきた通りのものなのですが、より詳細な今回の分析によって、何が不要な自粛であるかが実証的により明確に明らかになったと言うことができるでしょう。
 本稿の分析が、今後の政府のより適切な感染症対策に援用されることを、心から祈念したいと思います。

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藤井 聡

ふじい さとし

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。京都大学工学部卒、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授等を経て、2009年より現職。また、11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長、12年より18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。専門は公共政策論。著書に『経済レジリエンス宣言』(日本評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』『「10%消費税」が日本経済を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』(共に晶文社)、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版)、『大衆社会の処方箋』『国土学』(共に北樹出版)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)、MMTによる令和「新」経済論: 現代貨幣理論の真実(晶文社)など多数。

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