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松江英夫「Withコロナ」エコノミーの本質「時間と距離」の制約からの解放——暮らしが変わる3つの論点【『一個人』夏号】

「時間」と「場所」の座標軸の変容


 Withコロナ、ニューノーマルの世界では、「時間」と「場所」の使い方がこれまでと変わってゆく。非接触型、リモートワークなど働き方の変化が定着し、バーチャルやオンラインが日常生活に当たり前に入り込んで、既に我々は利便性や快適さを経験している。そこに機会を見出して新たなサービスや事業が生み出されると、それは不可逆的な流れになり新たな経済的価値をもたらす。
 Withコロナエコノミーの本質は、我々が従来は自覚して来なかった「時間的」及び「距離的」な制約からの解放である。


松江英夫

◼︎「ご近所エコノミー」の可能性

「時間と場所」の使い方の変化は、今後のローカル経済のあり方に影響を与える。

 リモートワークの進展により、今後の消費行動が、職場や通勤途中を中心に行われてきた発想から、自宅や居住地の近くなどローカルな滞在場所での消費へと比重が一定移ってゆく。

 背景には、在宅勤務や時差出勤などの働き方が変わることによる「時間」の使い方の変化がある。今までは職場や会社の人と過ごす時間が多く、働く場所や通勤途中で多くの消費がなされてきたが、在宅勤務による通勤時間の短縮により居住地で過ごす時間が増えてきた。

 変化は「時間の量(長さ)」だけではない。「時間の質」に対する価値観も確実に変わってゆく。

 自粛期間を経て、人々の意識、とりわけワークライフバランスの考え方は確実に変わった。以前は不可能と思っていた多くのことが案外自宅からも出来ること分かると、これからは目的が明確でなければ、わざわざ出社することを避けたいと思うようになるだろう。

 その半面で、家族や地域コミュニティーのつながりへの意識は高まり、プライベートな生活を重視する方向へ比重がシフトしてゆく。こうした「時間の質」に対する価値観も確実に変わってゆく。

 例えば、当面は休日の過ごし方も変わってゆく。海外をはじめとして遠出がしにくい環境下においては、近場を中心に楽しみを見つけようとする動きが起こり、地域内の魅力や観光資源が見直され、観光の「地産地消」需要も増える余地がある。

 今後リモートワークが更に広がってゆくならば、仕事とバケーションを両立する「ワーケーション」なども広がってゆく。副業や兼業が許容されてゆけば、夜や休みの時間を利用して地元で副業するといった機会も増える。仕事や雇用のあり方も次第に変化してゆくだろう。

 物理的な場所に居ることが問われなくなる時代は、“自分が居たい場所”での滞在時間がより長くなってゆく。

 自宅や滞在場所やその近所での消費活動がもたらす活性化、ご近所エコノミーの可能性は、ローカル経済活性化のチャンスにもなってゆく。

 

◼︎ナイトタイムエコノミーの変容

 Withコロナの時代においては、「夜の経済(ナイトタイムエコノミー)のあり方」も変わってゆく。
 「ナイトタイムエコノミー」は、夜遅い時間帯の消費活性化やインバウンド需要の取り込みのために、イベントの開演時間や交通機関の終電時間を遅らせる。それに合わせて飲食業やサービス業の深夜を含めた夜間の時間帯での需要を増やすという狙いの取り組みであった。つまりは、夜の“終わり”を伸ばして、“外での需要”を喚起するという発想の取り組みであった。

 しかし、コロナ禍での在宅勤務や自粛生活などをきっかけに、我々の働き方や生活スタイルが変化した。

 夜間や深夜の時間帯での外出は避けるようになり、夜間での外の消費ボリュームは低下し、従来のナイトタイムエコノミーの発想だけでは活性化には限界がある。

 今後は、Withコロナにおける意識や生活の変化によって生み出される「新たな需要」をいかに引き込めるかが重要である。今後リモートワークなどが定着すると、通勤時間が削減されることや、日中の時間や勤務場所がフレキシブルになることにより「夜の始まりの時間が早くなる」そして「自宅消費などの内での需要」を喚起する、いわば、今まで注目されていなかった「“始まり”と“内での消費”」に眠っているニーズをいかに掘り起こせるかがカギである。

 具体的には、飲食店においては、居酒屋が昼の定食や昼呑みをはじめる、小料理店が昼の弁当やデリバリングを始めるなど、昼間から夕方の早い時間帯のニーズの取り込みを図っている。ホストクラブが昼の時間にカフェを出して新たな業態にチャレンジするなど、“始まり”の時間帯の変化による新需要開拓を模索する動きがある。

 自宅消費への対応については、飲食店が従来の夜の営業に加え、テイクアウトも扱うことが一般化しつつあるし、ライブやスポーツ、演劇等のエンターテイメントのオンライン配信、スナックなどのバーチャル営業のようにリモート技術を使い業態を変えて、自宅や遠隔の“内なる消費”需要を掘り起こして新たな客層を引き込むなどの動きがすでに起こりつつある。

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松江 英夫

まつえ ひでお

デロイトトーマツグループCSO(戦略担当執行役)。中央大学ビジネススクール、事業構想大学院大学客員教授。フジテレビ『Live News α』コメンテーター。専門は経営戦略・組織改革、経済政策。著書に『自己変革の経営戦略』(ダイヤモンド社.2015年)など多数。次回【両極化の時代】をテーマに連載開始。

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