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あるか無いかと問われれば、無い――。作家・柳美里が考える、お金との付き合い方

芥川賞作家・柳美里に聞く「仕事とお金」

仕事を選ぶときの条件の一つとして、常につきまとうのが「お金」の問題。たとえやりがいのある仕事でも、報酬次第では二の足を踏んでしまう人は少なくないのではないでしょうか。2015年4月に鎌倉から南相馬に移住した作家・柳美里氏は「仕事とお金を切り離して考えた方がいいのでは」と説く。最新刊『人生にはやらなくていいことがある』で明かした、お金にとらわれない生き方とは。

やりがい、生きがいは買えない

 

 ちょうど移住のタイミングで『貧乏の神様』(双葉社、2015年)という本が出ました。『創』というオピニオン誌で7年間連載していた身辺雑記から「お金」にまつわるエッセイだけを、編集部が抜き出して構成した本なんですが、「芥川賞作家困窮生活記」という副題が付いていたので、自己破産をして南相馬へ都落ちしたんだというような噂を流されてしまった。

 ただ、あるか無いかと問われれば、お金はありません。

 移住前は、鎌倉から南相馬へ通っていました。臨時災害放送局で人々の話を聴くのは、わたしの「仕事」ですが、ギャラが出る「仕事」ではありません。無報酬なのです。交通費や宿泊費などの必要経費も自腹です。

 そのお金と時間を工面するのが大変で、「閉局まで番組を続ける」という約束を守るためには南相馬へ移住するしかないかな、という考えが脳裏を過ぎらなかったといえば、噓になります。

 時給、月給、年収――、仕事と報酬を切り離して考える人は少数派かもしれません。

 でも、誰だって、「役に立ちたい」という思いはあるはずです。

 要請に応じて、できることをする。時と場合によっては、「役に立ちたい」という気持ちが勝って、できないことまで引き受けてしまうこともあるかもしれません。

「役に立つ」ということは、「責任を負う」ということでもあります。

 それこそまさに、「仕事」です。

 その責任の軽重に応じて、感謝を上乗せして対価を払うというのが、報酬なのだと思います。

 責任を負わずには済むが、役に立っていることをあまり実感できない。働く時間を換金しているだけ。交換可能な存在。使い捨て。それは、仕事ではなく労働、苦役です。

 お金が大切なのは、言うまでもありません。お金が無ければ、食べていけない。お金は、稼がなければならない。

 しかし、お金では「やりがい」や「生きがい」が買えないのも、また事実です。

 わたしが言いたいのは、「仕事」を選ぶ時は、いったん「お金」を切り離して考えた方がいい、ということです。

 そもそも、お金との関わり方は、その人が何に価値を置くかによって異なってきます。

 育った家庭環境によっても左右されます。

 わたしは、「お金を貯める」文化がない家庭に育ちました。

 パチンコ屋の釘師だった父の月収は80万円。毎日何軒かのパチンコ屋の釘を打ち、フロアマネージャーも兼任していたので、かなりの高給でした。

 しかし、父は博打打ちだったのです。

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柳 美里

ゆう みり

1968年生まれ。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に入団。役者、演出助手を経て、86年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。97年、『家族シネマ』で芥川賞を受賞。著書に『フルハウス』(泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞)、『ゴールドラッシュ』(木山捷平文学賞)、『命』、『8月の果て』、『雨と夢のあとに』、『グッドバイ・ママ』、『JR上野駅公園口』、『貧乏の神様』、『ねこのおうち』、『まちあわせ』他多数。

写真/大森克己



 

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