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芥川賞作家・柳美里が考える「生きている人と死んでいる人のあいだ」

芥川賞作家・柳美里に聞く「死生観」

「『余生』や『老後』という言葉には違和感がある」。芥川賞作家・柳美里は「ここまでが生や命で、ここからは『余り』という考え方には賛同できない」と語る。最新刊『人生にはやらなくていいことがある』において、その死生観を明かす。

「あの世」と「この世」は続いている

 いま「この世」で生きている人で、死んだことのある人は一人もいません。

 事故や病で死線をさまよい臨死体験をして生還した人の証言を集めて研究をしている学者もいますが、死者にインタビューした人はいません。

 死んだら、人はどうなるのか?

南相馬・本陣山にて/撮影・柳美里

 

 

「あの世」で死んだ家族や友人や恋人に会えるかもれないし、会えないかもしれない。

「あの世」とは、どこにあるのか?

「この世」と「あの世」の間には、生と死の世界を隔て繋げる川がある、という考え方は、仏教で説かれている三途川のみならず、ギリシア神話にも書かれています。

 ダンテの『神曲 地獄篇』にも、地獄行きに決まった死者を船に乗せて川を渡るカロンという渡し守が登場します。

 近頃では、犬や猫が死ぬと「虹の橋の袂で飼い主を待っている」とよくいわれます。

 川や橋があるとして、それを渡った向こう側の「あの世」はどんなところなのか?

 仏教の寺院では「地獄極楽絵図」が描かれ、キリスト教の教会では宗教画の中に天国や地獄の様子が描かれて、それぞれの宗教指導者によって死後の世界が説かれてきました。

 それが、科学の進歩と共に「死んだらおしまい」という考え方が流布され、霊魂や「あの世」の話は非科学的なオカルトだと決めつけられてしまった。

 実際は、科学による光で照らし出すことができるのは、ほんの僅かな部分でしかないのに――。

 たとえば、宇宙。

 わたしたちは地球という惑星の表面で暮らしています。地球は太陽系の中にありますが、太陽系の外には銀河系があり、銀河系の外には銀河の集団があり、それらが泡のように存在しているのが宇宙空間だといわれています。

 でも、宇宙の果てまで行って見て来た人はいない。

 宇宙と「あの世」はよく似ています。

 どこから始まり、どこで終わるのか――、果たして始まりや終わりがあるのかどうかも、わからない。

 霊魂というのは、星のような存在なのかもしれない、と思う時があります。

 わたしたちが夜空を見上げて、見ることのできる星の中には、実際にはもう存在しない星がたくさん含まれています。

 もう存在しない星と、まだ存在する星が混ざっているのです。

 わたしたちが見ている星空は、遠い過去であり、現在でもあるわけです。

 わたしは星空を見上げるたびに、霊魂が生きている時のままの姿で時折現れるのは、あれらの消滅した星の瞬きのようなものではないか、と思うのです。

「あの世」と「この世」の境界にあたる川や橋などは存在せず、生きている人も死んでいる人も渾然一体となっているのではないか、と――。

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柳 美里

ゆう みり

1968年生まれ。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に入団。役者、演出助手を経て、86年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。97年、『家族シネマ』で芥川賞を受賞。著書に『フルハウス』(泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞)、『ゴールドラッシュ』(木山捷平文学賞)、『命』、『8月の果て』、『雨と夢のあとに』、『グッドバイ・ママ』、『JR上野駅公園口』、『貧乏の神様』、『ねこのおうち』、『まちあわせ』他多数。

写真/大森克己



 

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