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「こんな物語を書きたい」。作家・柳美里が母子で読み返した『ダリアの帯』とは?

第3回「柳美里書店の10冊」

「将来、南相馬市に書店を出したい」

 そう話すのは作家の柳美里氏。柳氏にとって作家デビュー30年、芥川賞受賞から20年と節目の年に出版した初の新書人生にはやらなくていいことがある』が売り上げを伸ばすなか、そうした「書店への思い」から新たな試みも行った。

『人生にはやらなくていいことがある』刊行に際し、「書店に足を運んでもらえるきっかけになれば」と出版社、書店とタッグを組み、親交のある著名人の寄稿、作家生活を振り返ったインタビュー、お勧めの書籍を紹介する『柳美里新聞』を発行。350店舗以上に無料で設置されている。

 出版関係者や読者からは「改めて柳さんの本を読んでみたいと思った」と声が上がる。

 まだまだ本にはできることがある。そんな思いを胸に書き続ける柳氏が『柳美里新聞 第三号』で紹介した1冊を公開。

わたしの母が夢見た少女漫画の世界

 わたしの祖父は、マラソンランナーでした。当時、日本の植民地だった朝鮮で、日本代表として、1940年の「東京オリンピック」への出場が有力視されていたのですが、戦争の激化によって日本政府は開催権の返上を決断します。オリンピック開催地は東京の次点だったヘルシンキに変更されるものの、結局第二次世界大戦の勃発によって大会自体が中止となってしまったのです。

 1945年、終戦の年に韓国慶尚南道密陽(ミリャン)で、わたしの母は生まれます。(密陽は、釜山から高速鉄道KTX東海線で約40分。三大アリランとして有名な密陽アリラン発祥の地で、三大楼閣の一つである嶺南楼<ヨンナムル>や、表忠寺<ピョチュンサ>や万魚寺<マノサ>などの古刹があります。天皇山の北側には、夏には氷が溶けず、冬の間は水が凍らない不思議な渓谷「オルムゴル・氷の谷」があり、夏休みの避暑地として人気があるそうです)

 焼け跡の終戦から、日本は復興への道を進みましたが、植民地支配から解放された朝鮮半島は内戦と分断へとなだれ込みます。

 祖父は共産主義者の嫌疑をかけられ投獄された後に、脱獄をして単身日本に逃亡します。祖母は母たち4人の子を連れてまず釜山に出ると、港で顔相占いをして渡航費用を貯めました。そして、子どもたちと共に小さな漁船に乗って玄界灘を越え、福岡県の門司港に上陸したのです。祖母は子連れで夫の行方を探し歩き、福島県で日本人女性と所帯を持って男の子をもうけていた夫と再会することになります。(わたしのルーツに興味を持たれた方は、『8月の果て』を読んでみてください)

 わたしの母は、苦難の連続だった子ども時代を乗り切って、なんとか大人になった後も、見合い結婚をした夫(わたしの父)が博打狂いだったせいで、わたしを筆頭にほぼ年子で生まれた4人の子どもを食べさせるために夜の勤めに出なければなりませんでした。

 そんな母が愛読していたのが、『なかよし』『りぼん』『少女フレンド』『マーガレット』『少女コミック』『LaLa』『ぶ~け』『プチフラワー』などの少女漫画雑誌だったのです。

 母はいつも誰かと長電話をしながら、新聞の折り込み広告の裏面(当時は裏面が白い広告が多かった)に、ふんわりとしたちょうちん袖のドレスを着て、髪型も綿菓子のようにふわふわした少女漫画の主人公の絵を描いていました。

 小学校に入学する前日のことでした。

 母は美容師をしていた妹(わたしの叔母)を家に呼ぶと、わたしの髪型を「ゆるくパーマをかけて、小公女セーラみたいにふわふわにしてあげて」とオーダーしました。

 叔母が到着したのはかなり遅い時間で、泣きたくなるくらい眠かったことと、ロットを巻かれる際に髪の生え際が引っ張られて痛かったことと、額にたれてくるパーマ液が不快だったことを憶えています。

 朝起きて鏡を見ると、わたしの髪は爆発していました。

「あぁ、かかり過ぎちゃった。でも、しばらくしたら、ふわふわになるわよ」と母は慰めてくれましたが、わたしは同級生に「お茶の水博士(『鉄腕アトム』に登場する科学者)」というあだ名を付けられてしまいました。

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柳 美里

ゆう みり

1968年生まれ。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に入団。役者、演出助手を経て、86年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。97年、『家族シネマ』で芥川賞を受賞。著書に『フルハウス』(泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞)、『ゴールドラッシュ』(木山捷平文学賞)、『命』、『8月の果て』、『雨と夢のあとに』、『グッドバイ・ママ』、『JR上野駅公園口』、『貧乏の神様』、『ねこのおうち』、『まちあわせ』他多数。

写真/大森克己



 

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  • 2016.12.10