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この絵を見て「痛そう」と思った人は、慢性腰痛の危険性あり

腰痛に悩む人の大多数は原因不明……その正体は“脳の錯覚”かもしれない!?

腰には異常がなくても、痛みが止まらない「腰痛症」。医療現場では、その一因が脳にあると認知されてきて、治療に心理的なアプローチも試みられているという。

慢性腰痛の背後には心の問題があった

 腰痛には心理的な要因もあると、長年にわたり腰痛患者を診続けてきた福島県立医科大学(福島医大)整形外科教授の大谷晃司さんは話す(雑誌『一個人』2016年12月号取材時)。

 「昔から整形外科ではレントゲンやCT、MRIといった画像検査や血液検査などの結果をもとに腰痛の診断をしてきました。骨折や椎間板へルニアなど、原因がはっきり分かるものもありますが、大多数は骨や筋肉などに異常が見られない。画像検査では何の問題もないのに『痛くてたまらない』と訴える患者さんも多いのです。その一方で、整体や鍼灸などの代替療法の治療院では、科学的根拠は立証されていないにもかかわらず、スタッフが手当てをしながら、『大変でしたね。痛かったですね』と患者さんの話に耳を傾けて共感をすることで、患者さんの痛みがやわらぐことがある。不思議ですよね」。

 そもそも痛みとは何なのか? そうした研究が近年では盛んに行われるようになり、これまで原因不明だった慢性腰痛の一部は、ストレスや不安、うつなどの心の問題と関係しているということが明らかになってきた。腰痛に関わる脳の仕組みについて、大谷さんはこう説明する。

 「慢性腰痛の患者さんの脳を調べてみると、健康な人に比べて血流が著しく悪く、患者さんの7割は不安やストレスによって脳の活動が低下していたというデータがあります。脳の活動が低下していると、痛みの信号にうまく反応できなかったり、オピオイドという鎮静物質がうまく働かなくなり、痛みが治まらなくなってしまうのです。もちろん、心の問題だけで腰痛が起こるわけではなく、痛みの処理能力の問題なども関係していると考えられています。しかし、今まで分からなかった慢性腰痛の一部の真犯人が分かったことは、大きな発見です」。

▲この絵を見て「痛そう」と思った人は、慢性腰痛の危険性あり。 イラスト/さとうただし

 

 さて、上の絵を見て、あなたはどう思っただろうか? もしも自分の腰に違和感を覚えたのなら、あなたも脳の錯覚が作り出した腰痛を持っているのかもしれない。ちなみに腰痛を持っていない人は、この絵を見ても何も感じないそうである。
 ストレスや不安、うつなどが原因で痛みが増幅される「心因性腰痛」。その治療法がいま大きな話題を呼んでいる。

【脳が腰痛を長引かせる仕組み】
1 腰に何らかの痛みを覚える
2 痛みの記憶から、不安や恐怖が残る
3 ストレスによって脳の鎮痛システムが鈍る
4 患部は治っても、脳が痛みを感じ続ける
5 長引く痛みから新たなストレスが生まれ、悪循環が続く

 通常、人は痛みを感じると、痛みを信号に変えて神経を通じて脳へと伝達する。すると、脳の前方にある「側坐核」が反応。オピオイドという鎮痛物質が働いて、必要以上の痛みを感じないようにする。これを「下行性疼痛抑制系」という。感情をコントロールする「側坐核」はストレスに弱い。本来なら痛みの信号を受けると、痛みを抑える鎮痛物質を働かせる部位だが、慢性的なストレスによって、その機能が著しく低下する。すると、痛みの信号が直接的に脳へと届き、腰の痛みを長引かせる。

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大谷 晃司

おおたに こうじ

福島県立医科大学 教授

医学博士。年間に延べ1万人もの患者を治療する運動器疾患の名医。著書『長引く腰痛は"脳の錯覚"だった』(朝日新聞出版/共著)ほか、テレビ番組でも活躍する。


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