【高市発言】中国が日本への猛抗議で持ち出した「敵国条項」とは?「日本政府が国際政治を全く理解していない」と分かる理由【中田考】
《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第4回】

1.高市の「台湾有事存立危機事態」発言と“敵国条項”
2025年11月7日、高市首相が衆院予算委員会において台湾有事が「存立危機事態」に該当し自衛隊による集団的自衛権行使の可能性があると述べた。
それに対し中国側は薛剣総領事がSNSで「日本は敗戦国であり台湾問題に介入する資格はない」と投稿した。高市は10日の予算委員会で、自らの発言を撤回しないと明言した上で、自らの見解を政府統一見解として出すつもりはなく、今後の反省点として特定のケースを明言することは慎むと述べ火消しにかかったが、11日には『環球時報』が高市発言を「一つの中国」を否定するものであり極めて挑発的と批判し、12日に中国政府台湾事務弁公室が高市発言は内政干渉であり日本は台湾で多くの罪を犯したことを反省すべきだと述べた。13日には中国外務省が高市発言を内政干渉と非難し改めて即時撤回を要求した。しかし高市は対応しなかったため、14日には中国外務省が国民に対し「日本への渡航を控えるよう」注意喚起し、15日には中国教育省も留学生に対し「日本滞在は安全リスクがある」と警告した。
その上で中国外務省の毛寧報道官は17日午後の記者会見で「日本は火遊びをやめるべきであり、高市首相は発言を撤回すべきだ」と改めて表明した。18日には外務省のアジア大洋州局長が高市発言の撤回をめぐって北京で中国外務省アジア局長と協議したが両者の主張は平行線を辿り、中国外務省は改めて発言撤回を要求した。
そして21日には在日本中国大使館がSNS「X(旧ツイッター)」の投稿でいわゆる“敵国条項”に関する国際連合憲章の規定を根拠に挙げ日本が再び侵略に踏み出すような行動を取れば中国には国連安全保障理事会の承認を得ずに「直接的な軍事行動」を取る権利があると主張。国連大使傅聡はグテレス国連事務総長宛てに「日本が台湾海峡を巡り軍事介入すれば、それは侵略行為となり、中国は国連憲章および国際法の下で自衛権を断固として行使し国家主権と領土の一体性を守る」と敵国条項を根拠に高市発言が国際法に違反していると非難する書簡を送った。
“敵国条項(Enemy Clauses)”とは第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国(枢軸国)に対する措置を規定した国際連合憲章第53条及び第107条を指す条項である。第二次世界大戦の敗戦から80年が経ち、列強の指導者たちの中にもはや大戦の経験者は一人もいない。特に若い読者の中には「中国はなぜ今頃になって“敵国条項”などという時代錯誤な要求を持ち出すのか?」と訝しむ者も少なくないだろう。そこで問題の歴史的背景を概観しておこう。
1945年の国連(United Nations)の創設メンバーとなった連合国は51か国であったが、その最高意思決定機関は法的に国連加盟国に拘束力を持つ決議を行うことができる安全保障理事会で、そのうちアメリカ合衆国、イギリス、フランス、ソビエト連邦(継承国はロシア連邦)、中華民国(継承国は中華人民共和国)の5か国が拒否権を有する常任理事国である。国連憲章とはまだ第二次世界大戦中であった1944年8~10月に米英中ソ連の代表がワシントン郊外で会議を開き国際平和機構の設立案を作成し、1945年4月25日~6月26日にサンフランシスコで開催された「国際機構に関する連合国会議」で憲章草案が審議されて 51か国が署名し、1945年10月24日に安保理常任理事国5か国(米英仏中ソ)とその他の署名国の過半数が批准を完了し、憲章第110条に基づき効力が発生したものである。
国連憲章第53条は、日米安全保障条約や「地域ごとの取り決め」やNATO(北大西洋条約機構)のような「地域の組織」は必要に応じて武力行使を含む制裁行動をとることができるが、それには国連安全保障理事会の許可が必要で無許可で勝手に行ってはいけないと定めている。但しそれには例外があり、第二次世界大戦で敵だった国、つまりドイツや日本のような枢軸国の敗戦国がまた侵略を始めそうな時には、それに直面した戦勝国は安保理の許可なしに行動することが許される。そして第107条は国連憲章が枢軸国の敗戦国に対してに限り、強制的制裁などを行うことを妨げない。これが国連憲章の“敵国条項”の主旨である[1]。
注 [1] 当該国連憲章の全文は以下の通りである。なお第77条も“敵国条項”に含めることがあるが「第二次世界戦争の結果として敵国から分離される地域」の句の中で“敵国”の語が使われているだけなので全訳は省略する。 第53条 安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取り決めまたは地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取り決めに基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取り決めにおいて規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。 本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。 第107条 この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。
KEYWORDS:
✴︎KKベストセラーズ好評既刊 新装重版✴︎
★初の女性新首相・高市早苗「政治家の原点」がここにある★
『アメリカ大統領の権力のすべて』待望の新装重版
◎民主主義国家の政治をいかに動かし統治すべきか?
◎トランプ大統領と渡り合う対米外交術の極意とは?
★政治家・高市早苗が政治家を志した原点がここにある!
「日本は、国論分裂のままにいたずらに時間を食い、国家意志の決定と表明のタイミングの悪さや宣伝下手が災いし、結果的には世界トップ級の経済的貢献をし、汗も流したにもかかわらず、名誉を失うこととなった。
納税者としては政治の要領の悪さがもどかしく悔しいかぎりである。
私は「国力」というものの要件は経済力」、「軍事力」、そして「政治力」だと考えるが、これらの全てを備えた国家は、現在どこにも存在しない。
(中略)
そして日本では、疑いもなく政治力」がこれからのテーマである。
「日本の政治に足りないものはなんだろう?」情報収集力? 国会の合議能力? 内閣の利害調整能力? 首相のメディア・アピール能力? 国民の権利を保証するマトモな選挙? 国民の参政意識やそれを育む教育制度?
課題は随分ありそうだが、改革の糸口を探る上で、アメリカの政治システムはかなり参考になりそうだ。アメリカの政治にも問題は山とあるが、こと民主主義のプロセスについては、我々が謙虚に学ぶべき点が多いと思っている。
(中略)
本書では、行政府であるホワイトハウスにスポットを当てて同じテーマを追及した。「世界一強い男」が作られていく課程である大統領選挙の様子を描写することによって、大統領になりたい男や大統領になれた男たちの人間としての顔やフッーの国民が寄ってたかって国家の頂点に押し上げていく様をお伝えできるものになったと思う。 I hope you enjoy my book.」
(「はじめに」より抜粋)
◉大前研一氏、推薦!!
「アメリカの大統領は単に米国の最高権力者であるばかりか、世界を支配する帝王となった。本書は、連邦議会立法調査官としてアメリカ政治の現場に接してきた高市さんが、その実態をわかりやすく解説している。」

ALL ABOUT THE U.S. PRESIDENTIAL POWER
How much do you know about the worlds’s most powerful person―the President of the United States of America? This is the way how he wins the Presidential election, and how he rules the White House, his mother country, and the World.



<著者略歴>
高市早苗(たかいち・さなえ)
1961年生まれ、奈良県出身。神戸大学経営学部卒業後、財団法人松下政経塾政治コース5年を修了。87年〜89年の間、パット•シュローダー連邦下院議員のもとで連邦議会立法調査官として働く。帰国後、亜細亜大学・日本経済短期大学専任教員に就任。テレビキャスター、政治評論家としても活躍。93年、第40回衆議院議員総選挙に奈良県全県区から無所属で出馬し、初当選。96年に自由民主党に入党。2006年、第1次安倍内閣で初入閣を果たす。12年、自由民主党政務調査会長に女性として初めて就任。その後、自民党政権下で総務大臣、経済安全保障大臣を経験。2025年10月4日、自民党総裁選立候補3度目にして第29代自由民主党総裁になる。本書は1992年刊行『アメリカ大統領の権力のすべて』を新装重版したものである。
✴︎KKベストセラーズ「日本の総理大臣は語る」シリーズ✴︎

✴︎KKベストセラーズ 中田考著書好評既刊✴︎
『タリバン 復権の真実』
『宗教地政学で読み解く タリバン復権と世界再編』
※上の書影をクリックするとAmazonページにジャンプします



