【高市早苗】新総理に待ち受ける冷徹な現実。「対中抑止の最前線に立つ地政学的緩衝国家」としての役割【中田考】
《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第2回】

◾️序.宗教と政治
2025年10月12日の朝刊の一面は「公明連立離脱」の大見出しが飾った。自公連立は1999年のことで既に26年が経っており、平成生まれ世代にとっては物心がついた時からの所与の事実である。しかし高市早苗新総理、斎藤鉄男公明党代表、石破茂前総理らは全て昭和生まれであり、最も若い高市でも1999年には既に自民党の衆議院議員であった。つまり今回の政変劇の主だったプレーヤーたちは皆、自民党と公明党との連立以前に政界に入り、連立の経緯を知る政治家たちであったということである。筆者もまたその経緯をメディア報道を通じてリアルタイムで見てきた世代である。そこで自公連立解消の歴史的意味の理解を広い読者層と共有するために、先ず1999年の自公連立の政治的背景を以下に概観しておこう。
◾️1.戦後日本の政治状況
第二次世界大戦敗戦後の日本はアメリカの占領行政下で「天皇制全体主義」から「自由民主主義」への思想改造を施された。しかし大戦直後の東西冷戦、特に朝鮮戦争(1950~1953年)によって、大日本帝国から日本国へと転生した“帝国日本”がアジアにおける反共の砦として位置づけられたことにより、「思想改造」は棚上げされ中途半端なものに終わった。かわって公職追放になっていた岸信介をはじめとする旧体制の要人らが政界復帰し、国粋主義、権威主義、全体主義的傾向が復活し日本の右傾化が制度的に定着した。
こうして日本では大日本帝国の遺物の国粋主義、権威主義、全体主義に対米追随の資本主義が接ぎ木された雑多な利益団体を基盤とする派閥の寄せ集めのキメラのような与党「自由民主党」と、米国占領体制によって移植された自由民主主義と東側陣営の影響下の共産主義を取り込み国民の不満にはけ口を与えて「ガス抜き」の役割を果たす体制内批判勢力の社会党を第一党とする万年野党が共生する「55年体制」(1955-1993年)と呼ばれる政治体制が成立した。この「55年体制」下で日本は「日本の経済的奇跡(Japanese economic miracle)」と呼ばれる発展を記録しGDP世界第二位の経済大国に成り上がった。
しかし1973/4、1979/80年の二度にわたる石油ショックで失速した日本は貿易不均衡による日米貿易摩擦でジャパンバッシングを招き、アメリカの逆鱗をかい、1991年の東西冷戦崩壊によって、左右のイデオロギー軸が消滅したことによって、ロシア、中国、ドイツと並ぶ仮想敵国として扱われることになり、日本経済は長期的停滞に入った。冷戦崩壊によるイデオロギー軸の消滅が「55年体制」のレゾンデートルを崩壊させたことで、長期的に凋落傾向にあった自由民主党と社会党の「1と1/2政党制」とも言われた「55年体制」は、1993年の自民党の分裂、非自民8党連立細川護熙政権成立によって最終的に終焉することになる。なお1993年の自民との分裂に次いで1996年には社会党が社会民主党に改称し、その後も分裂と他党との離合集散を繰り返し、現在の立憲民主党(2017年)、国民民主党(2020年)に系譜的に連なっている。
自公連立の解消に至った2025年の参院選における政局の不安定化、リベラル派の退潮と排外主義的新興勢力の台頭による分極的多党制化などは、1993年のときも言われた「55年体制」の崩壊の延長上にある。なぜならば1990年代に入り、55年体制が崩壊し政界再編が進む中で、自民党は単独政権維持が困難となり、事実1993年の細川政権成立以来、今回の高市政権の成立以前には自民党は一度も単独与党になっていなかったからである。
「55年体制」の崩壊と多党化、分極化の原因としては従来の政党の支持基盤であった労働組合、農協、業界団体、宗教団体といった中間団体、地縁・血縁コミュニティの衰退による有権者の個人化が進み、無党派層の動向が選挙結果を左右する流動的状況の常態化が既に挙げられていた。更にグローバリゼーションと新自由主義経済の浸透は、都市部と地方、富裕層と低所得層、正規と非正規、若年層と高齢層のあいだの経済的・文化的格差を拡大させ、大都市のグローバル志向、規制改革志向の上層階級の自由主義・リベラリズムと、地方の保守的な生活保障重視の庶民層のナショナリズム・排外主義という、従来の保革対立の枠組みに収まらないイシュー別・価値観別の分断を政治空間に持ち込ませることになったことで多党化、分極化を加速させた。
特に2000年代以降のインターネット、特にSNS(Twitter, YouTube, TikTok)の普及により、政党や政治運動がマスメディアを経由せず直接的に個人と接触できるようになった反面、情報のフィルターバブル、エコーチェンバー現象により、現実に触れる情報は実際には極めて偏ったものであるばかりでなく、その信念は増幅強化されることになる。その結果、陰謀論、フェイクニュース、誹謗中傷、キャンセルカルチャー、スラップ訴訟などを、それぞれの政党や政治運動などが支持者拡大の手段として乱用することになり、社会の分断が進み、社会的統合が脅かされることになっているのが今日的状況である。
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◎民主主義国家の政治をいかに動かし統治すべきか?
◎トランプ大統領と渡り合う対米外交術の極意とは?
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「日本は、国論分裂のままにいたずらに時間を食い、国家意志の決定と表明のタイミングの悪さや宣伝下手が災いし、結果的には世界トップ級の経済的貢献をし、汗も流したにもかかわらず、名誉を失うこととなった。
納税者としては政治の要領の悪さがもどかしく悔しいかぎりである。
私は「国力」というものの要件は経済力」、「軍事力」、そして「政治力」だと考えるが、これらの全てを備えた国家は、現在どこにも存在しない。
(中略)
そして日本では、疑いもなく政治力」がこれからのテーマである。
「日本の政治に足りないものはなんだろう?」情報収集力? 国会の合議能力? 内閣の利害調整能力? 首相のメディア・アピール能力? 国民の権利を保証するマトモな選挙? 国民の参政意識やそれを育む教育制度?
課題は随分ありそうだが、改革の糸口を探る上で、アメリカの政治システムはかなり参考になりそうだ。アメリカの政治にも問題は山とあるが、こと民主主義のプロセスについては、我々が謙虚に学ぶべき点が多いと思っている。
(中略)
本書では、行政府であるホワイトハウスにスポットを当てて同じテーマを追及した。「世界一強い男」が作られていく課程である大統領選挙の様子を描写することによって、大統領になりたい男や大統領になれた男たちの人間としての顔やフッーの国民が寄ってたかって国家の頂点に押し上げていく様をお伝えできるものになったと思う。 I hope you enjoy my book.」
(「はじめに」より抜粋)
◉大前研一氏、推薦!!
「アメリカの大統領は単に米国の最高権力者であるばかりか、世界を支配する帝王となった。本書は、連邦議会立法調査官としてアメリカ政治の現場に接してきた高市さんが、その実態をわかりやすく解説している。」

ALL ABOUT THE U.S. PRESIDENTIAL POWER
How much do you know about the worlds’s most powerful person―the President of the United States of America? This is the way how he wins the Presidential election, and how he rules the White House, his mother country, and the World.



<著者略歴>
高市早苗(たかいち・さなえ)
1961年生まれ、奈良県出身。神戸大学経営学部卒業後、財団法人松下政経塾政治コース5年を修了。87年〜89年の間、パット•シュローダー連邦下院議員のもとで連邦議会立法調査官として働く。帰国後、亜細亜大学・日本経済短期大学専任教員に就任。テレビキャスター、政治評論家としても活躍。93年、第40回衆議院議員総選挙に奈良県全県区から無所属で出馬し、初当選。96年に自由民主党に入党。2006年、第1次安倍内閣で初入閣を果たす。12年、自由民主党政務調査会長に女性として初めて就任。その後、自民党政権下で総務大臣、経済安全保障大臣を経験。2025年10月4日、自民党総裁選立候補3度目にして第29代自由民主党総裁になる。本書は1992年刊行『アメリカ大統領の権力のすべて』を新装重版したものである。
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