国際社会がタリバンをテロリスト指定するのは、なぜ間違っているのか?【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国際社会がタリバンをテロリスト指定するのは、なぜ間違っているのか?【中田考】

『タリバン 復権の真実』をなぜ私は著したのか?


2021年8月15日にタリバンがアフガンを制圧するという衝撃のニュースが走った。アメリカの傀儡だったガニ政権は瞬く間に崩壊し、アメリカ軍は撤退。現在、第二次タリバン政権が国内統治と、国際社会への復帰を求めて奔走している。だが、国際社会はタリバン政権に対してテロリスト指定と経済制裁を今も解除せずにいるのが実情だ。このほど『タリバン  復権の真実』(KKベストセラーズ)を上梓し、ベストセラーとなっている著者中田考氏に、「タリバン政権に対する国際社会の非難は何が間違っているのか」について寄稿してもらった。2001年に起こった「タリバンによるバーミヤンの大仏破壊」に対する国際社会の非難についても同様。それらの問題の本質についても読者が考察するうえで非常に重要な指摘と示唆に富んでいる。


2021年8月15日、アフガニスタンの首都カブールの国際空港で記者会見するタリバンの幹部たち。

 

 アフガニスタン内戦との関わりは、1992年に遡ります。当時在サウジアラビアの首都リヤドの日本大使館で専門調査員として働いていた私はサウジアラビアのアフガニスタン内戦との関わりを調べていました。後に「911アメリカ同時多発テロ」の首謀者として有名になるウサーマ・ビン・ラーディン(2011年)について、自らアフガン・ジハードに参戦したのみならず、ペシャワールに「ジハードと救済」事務所を立ち上げ、エジプトなどアラブ諸国の義勇兵のアフガニスタンヘの移送経費を負担していることを知ったのもこの専門調査員時代のことです[注1]

 当時の主たる関心はイスラーム党(ヒズビ・イスラーミー)でした。それでリヤドで知り合ったイマーム・イブン・サウード・イスラーム大学のイスラーム法学部で学ぶアフガン人留学生でイスラーム党のリヤド支部代表だったサイイド・ハビーブッラー師にペルシャ語(ダリ語)の家庭教師をお願いし、孤児の生活支援(カファーラ)のプログラムに参加したのが私のアフガニスタンとの関わりの始まりでした。

 1992年リヤドの日本大使館に赴任した時、アフガニスタンではちょうどムジャーヒディーン諸派が首都カーブルに侵攻しソ連の傀儡だったナジーブッラー政権が崩壊した直後でした。ところがカブールに侵攻したムジャーヒディーン諸派の軍閥たちは利権をめぐってたちまち権力闘争によって分裂し、カブール自体が戦場と化し、1993年に敵対するイスラーム協会(ジャムイーヤティ・イスラーミー)のラッバーニーが大統領、イスラーム党(Ḥizb-I Islāmī)のヒクマチヤールが首相になることでいったん妥協が成立してからも、ムジャーヒディーンたちが殺しあう内戦は一向におさまらずむしろ激化しました。

 

ラッバーニー

 

 ソ連軍とその傀儡の共産主義政権をジハードによって倒し、イスラームの理想を体現したイスラーム国家がアフガニスタンに出現すると信じていた私たちムスリムは皆ずいぶん失望しました。ビン・ラーディンも内紛に明け暮れるムジャーヒディーンたちに嫌気がさしてアフガニスタンを去ってスーダンに向かった、と言われています。

 タリバンについて知ったのは帰国後1994年、汎アラビア語紙『アル=ハヤート』紙の記事でだったと思います。民衆からみかじめ料を取り立てる匪賊の類に成り下がったムジャーヒディーンたちの横暴に耐えかねて世直しのために立ち上がった神学生集団(タリバン)は瞬く間に、ムジャーヒディーンの軍閥たちを追い払い、1996年には首都カブールを占領し、アフガニスタンの国土の大半を実効支配し「イスラーム首長国」(第一次タリバン政権)の樹立を宣言しました。引き続く内戦による無法状態を治め、治安を回復し、イスラーム法を厳格に施行するタリバン政権は、世界最大のケシの産地として悪名高かったアフガニスタンの麻薬取引を根絶するという偉業を成し遂げました。しかし、反イスラームの欧米のメディアは、タリバンを誹謗・中傷するプロパガンダを繰り広げました。なかでもタリバンを有名にしたのが、2001年のバーミヤンの石仏破壊でした。

[注1] 中田考「宣教国家サウディアラビアの対外イスラーム支援」『中東研究』No.395, 1994/10, pp.10-27.

次のページタリバンによる「バーミヤンの石仏破壊」の真意

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◉中田考『タリバン 復権の真実』出版記念&アフガン人道支援チャリティ講演会

日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30

場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1

◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
◆日本はタリバンといかに関わるべきか?
イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。

    参加費:2,000円 
    ※当日別売で新刊『タリバン 復権の真実』(990円)を発売(サイン会あり)

    ◉お申込は以下のPeatixサイトから↓

    ★内田樹氏、橋爪大三郎氏、高橋和夫氏も絶賛!推薦の書
    『タリバン 復権の真実』

    《内田樹氏 推薦》
    「中田先生の論考は、現場にいた人しか書けない生々しいリアリティーと、千年単位で歴史を望見する智者の涼しい叡智を共に含んでいる。」

    《橋爪大三郎氏 推薦》
    「西側メディアに惑わされるな! 中田先生だけが伝える真実!!」

    《高橋和夫氏 推薦》
    「タリバンについて1冊だけ読むなら、この本だ!」

     

    ※イベントの売上げは全額、アフガニスタンの人道支援のチャリティとして、アフガニスタン支援団体「カレーズの会」に寄付いたします。

    ※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトへジャンプします。

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    中田 考

    なかた こう

    イスラーム法学者

    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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