多民族国家アフガニスタンの知られざる真実【レシャード・カレッド×中田考】第2回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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多民族国家アフガニスタンの知られざる真実【レシャード・カレッド×中田考】第2回

「タリバン復権の真実」と「今、アフガンで生きる民間人の実情」を知りたい。


2021815日、タリバンがアフガニスタンを制圧。「タリバンの恐怖政治が復活する」「タリバンは女性の権利は認めない」「米国の協力者は粛清する」等、それ以降も西側メディアは「タリバン=悪」説のプロパガンダに終始し、国際社会との協調を阻んでいる。一方、アフガニスタンでは今、食糧不足によって多くの子どもたちの餓死が出始めていること、また医療設備や医薬品の不足で国民の生活はさらに危機に瀕しているといった報道はあまりに少ない。米国はもちろん、国際社会は今、窮状に喘ぐアフガニスタンを放置し続けているのが実情だ。イスラーム学の第一人者である中田考氏が新刊『タリバン 復権の真実』(KKベストセラーズ)を上梓。タリバンによるアフガン制圧の真相からタリバンの組織や思想までが、初めて詳細に語られている。今回、アフガニスタンのカンダハールで医療と教育の支援をしているレシャード・カレッド医師に、中田考氏がインタビュー。タリバンのアフガン制圧後の知られざる実情と、日本人へ向けたメッセージを読者のみなさんにはぜひ聞いていただきたい。 第2回を公開。


2020年02月29日、カタールのドーハで和平合意の調印会場を出る、当時アフガンの反政府勢力とされたタリバン代表団。中央はバラーダル師。2021年9月15日、Time 誌はバラーダル師を「2021年の最も影響力のあった100人(リーダー部門)」に選出した。

■多民族国家アフガニスタン

 

中田:アフガニスタンは多民族で、いろいろな民族の方がいらっしゃるということをよく聞きます。

 そこでいつも分からないのは、タジク人とハザラ人の関係です。どちらもペルシャ語話者ですが、一方で宗教としては、タジク人はスンニ派が多いし、ハザラ人はシーア派が多い。見かけも異なり、ハザラ人の方はかなり東アジア人、つまり我々に近いような顔をしているという話を聞きます。

 言葉として見たときに、アフガニスタンのペルシャ語は「ダリー語」とよく表記されていますが、タジク人のしゃべるペルシャ語とハザラ人のしゃべるペルシャ語は別なんでしょうか?

 

レシャード:いえ、「言葉が別」というほどのことではなく、いわゆる方言があるのです。日本語にも地域によって多少の方言がありますね。ダリー語の中でもその程度の方言の違いはありますが、言語としては全然違いはありません。

 パシュトゥー語もダリー語も公用語になっておりまして、アフガニスタンの教育では学校で両方とも学ぶことが義務になっていますから、基本的に両方ともしゃべれる人が多いです。但しパシュトゥー語は発音が少し難しいので、ダリー語を母語とするタジク人とハザラ人にとっては発音しづらいところもあります。逆にパシュトゥーン人からするとダリー語にはそれほど難しいところではないので、みんなある程度は理解できるようになっております。

 

中田:なるほど。じゃあ、ハザラ人もタジク人も、言葉の違いは方言の違い程度であって、どちらもダリー語を使っていると言っていいわけですね。

 

レシャード:そういうことになります。

 

中田:これもよく言われるんですけども、今度はパシュトゥーン人のほうでも違いがありますよね。もちろん地方によっていろいろ違うでしょうけれども、特にレシャード先生がお生まれになった南部のカンダハールなどの場合と、アフガニスタンの東部のナンガルハールでは、おなじパシュトゥーン人でもだいぶ違うとも聞くんですけど、実際に言葉とか習慣は相当に違うものなんでしょうか?

 

レシャード:これも方言と言えば方言で、地方によっては発音の仕方が違うこともありますが、使う言葉そのものには大きな差はありません。ですからもちろん他の地域の言葉を全く理解できないようなことはないです。

 習慣に関しては、地方によっては多少の差があります。アフガニスタンは内陸にある国で、四方がいろんな国に囲まれています。ですからどうしても、それぞれの地域ごとに、隣にある国の文化が浸透しております。

 例えばヘラートですと、イランとの国境から100km程度しか離れていない地域ですから、同じダリー語をしゃべるにしてもイランのペルシャ語と似通っている言葉になってしまっていますし、習慣もイランに似通っているところがあります。同様に、北部のタジキスタンとかウズベキスタンに近い地域では、それらの国の習慣に近い部分が出てきていることは事実です。

 そういう違いは多少ありまして、これは生活の上での必要なことなのかもしれません。

 

中田:なるほど。それはそうですね。

  

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◉中田考『タリバン 復権の真実』出版記念&アフガン人道支援チャリティ講演会

日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30

場所:「隣町珈琲」 品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1

◆なぜタリバンはアフガンを制圧できたか?
◆タリバンは本当に恐怖政治なのか?
◆女性の権利は認められないのか?
◆日本はタリバンといかに関わるべきか?
イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。

    参加費:2,000円 
    ※当日別売で新刊『タリバン 復権の真実』(990円)を発売(サイン会あり)

    ◉お申込は以下のPeatixサイトから↓

    ★内田樹氏、橋爪大三郎氏、高橋和夫氏も絶賛!推薦の書
    『タリバン 復権の真実』

    《内田樹氏 推薦》
    「中田先生の論考は、現場にいた人しか書けない生々しいリアリティーと、千年単位で歴史を望見する智者の涼しい叡智を共に含んでいる。」

    《橋爪大三郎氏 推薦》
    「西側メディアに惑わされるな! 中田先生だけが伝える真実!!」

    《高橋和夫氏 推薦》
    「タリバンについて1冊だけ読むなら、この本だ!」

     

    ※イベントの売上げは全額、アフガニスタンの人道支援のチャリティとして、アフガニスタン支援団体「カレーズの会」に寄付いたします。

    ※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトへジャンプします。

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    中田 考

    なかた こう

    イスラーム法学者

    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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