多民族国家アフガニスタンの知られざる真実【レシャード・カレッド×中田考】第2回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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多民族国家アフガニスタンの知られざる真実【レシャード・カレッド×中田考】第2回

「タリバン復権の真実」と「今、アフガンで生きる民間人の実情」を知りたい。

レシャード・カレッド医師

■異なる民族同士の実際の関係とは?

 

中田:よく「対立がある」といった話を聞きますけれども、それはアフガニスタンに限らずどこでもある話なので、私はあまり大げさに考えるべきじゃないと思っています。

 そこで、パキスタンのクエッタとの関係が深い南部のカンダハールの人たちと、パキスタンの都市としてはペシャーワルと近い東部のナンガルハールの人たちとの間の交流について、実際のところを聞かせていただけますか?日常的な付き合いは結構広いものなのでしょうか?それとも、付き合いはあまりないものなのでしょうか?

 

レシャード:それは結構ございます。活動の分野によって、もちろん度合いは異なりますけれども。例えば商売をやっている連中はほとんどの地域と行ったり来たりしますし、仕事の人たちとの付き合いがあったりします。

 お互いの人々のことも分かっているし、習慣にもそんなに大きな違いはないので交流できます。タジク人とパシュトゥーン人とハザラ人の間でも全然問題なくお互いに付き合ったりすることがあります。

実際には、ある地域には特定の人たちだけがいるとは限りません。いろいろな地域にいろいろな人たちが結構おります。例えば私の出身地のカンダハールはパシュトゥーン人の多い地域で、多くはスンニ派ですが、カンダハールには同様にシーア派の人たちが住んでいる結構広い地区もあります。私の実家もシーア派の地区の中にあるんです。

 

中田:あ、そうなんですか。

 

レシャード:はい。一緒に学校に行って勉強をしたり、いろいろなお付き合いがあったりと、全然問題なくやっています。

 職種によっても特徴がありまして、例えばハザラ人がやっている仕事で特色があるものは、カンダハールでもカブールでもヘラートでも、ハザラ人たちが中心になってその仕事をやっています。そのような使い分けがありますので、決して人々の間に隔たりばかりを作って軋轢ばかり生み出しているというようなことではないです。様々な人々がいるのは、アフガニスタンでは元々の話ですよ。

 

中田:そうですね。

 

レシャード:しかし政治的な問題が持ち上がると、人々の違いを政治に利用・悪用する人たちが出てきますから、それが変な印象を作ってしまっていますね。最近は、政治的な損得のために人々の違いが利用されている事実はありますから、それを全く否定はしないけれど、元々は大きな隔たりとか、憎しみとかといったものは特にございませんでした。

 

中田:今、フェイクニュースが多いですね。この前もタリバンに内紛があり「内務大臣のスィラージュッディーン・ハッカニーが、バラーダル副首相を殺した」とかいうニュースが流れました。私のようにタリバンのニュースを20年以上追っていると、タリバンの内部対立、内紛の風評がずっと言われ続けていますので、「今回も多分嘘だろう」と思っていたんですけれども、案の定嘘でしたね。

 

レシャード:そうですね。アフガニスタンに限らずどこの世界でも派閥はありますので、その派閥の間には合うもの、合わないものもいろいろとあります。

 今回タリバンが政府を作るにあたって、タリバンの中にもいろいろな派閥が入り込んできています。それぞれの派閥によって、辿ってきた路線は多少違いますから、正直言って私自身は、これだけのいろいろな派閥が、大臣だなんだの立場でまとまることができるとは思ってもいなかったんですよ。

 むしろ私が考えたのは……これはあくまでも私の理想というか、想像の話ですが、以前のタリバンの政権のときに「シューラー」と言われる会議がありました。そこにいろんな派閥なり人たちが集まって、みんなでいろいろなことを協議していました。

 一方で現実的に動いていた政府はまた別にあって、実務的に仕事をしたり実際に動いているのは政府だったわけです。

 ですから今回も、そういうやり方を中心にしてやっていくのかなと思っていました。私はそのほうが理想的だったと思います。

 中田先生もよくご存じだと思いますが、現在、国際的に「女性の参加」というものが非常に重要な問題になってきていますね。

 タリバンの中には、それにすごく賛成な人もいれば、頑なに断っている人たちもいるんです。様々な見解があることは理解できるところです。

 だから、もしシューラーがあれば、シューラーの中に女性を入れていろんなことについて声を聞いたり、発言をしてもらうことができます。そちらのほうが一般的な政府の形だろうと思います。

 このように、実務を担う政府とは別に、構想を担っていく立場のシューラーがあったほうが、よりやりやすかったのかなと感じます。

 これはあくまでも私の考え方ですから、タリバンがどのように考えているのかは分かりませんが、もし私が相談されたら、そういう形で進めるようにしていきたいと思っています。

 

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イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
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    中田 考

    なかた こう

    イスラーム法学者

    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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