自民党新総裁・高市早苗、公明党の連立解消で排外主義ポピュリストへの接近と政界再編。一挙に右傾化が加速する危険性大【中田考】
《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第1回】
◾️8.孤立文明の世界国家“帝国日本”の取るべき道
筆者は石破総理の続投が“帝国日本”の衰退を一時的に遅らせる歯止めとなっていたが、高市の新総裁就任は凋落を加速させる亡国の選択であったと考えている。その理由は、現在の“帝国日本”は先に述べたトインビー的な意味で、孤立文明である日本文明の「世界国家」[6]であることにある。
第二次世界大戦後リベラルで民主的な西欧文明の盟主として振舞ってきたアメリカの第二次MAGAトランプ政権がルール・チェンジャーとなったことで、欧米の威信低下は決定的になった。[7]そしてそれは世界が「欧米vsグローバルサウス」の大きな構図の中で、文明のフォルト・ラインに沿ったブロック化、ブロック同士の離合集散による再編の過程にある中で、日本文明という孤立文明の「世界国家」“帝国日本”は、帰属する文明ブロックもなく、国際政治の荒波に翻弄される運命に陥ったことを意味する。
日本思想史を専攻する倫理学者の菅野覚明(東京大学名誉教授)は、「インド、シナ、日本がいかなる意味でも『一つ』であったことはない」、との津田左右吉の言葉を引き、「日本にとっては全ての国が『他者』である」と喝破し、「そうであるならば日本が国際社会において取るべきスタンスはすべての国を等しく『他者』として尊重し誠実にかかわっていく以外にない」と述べている。[8]
◾️9.高市新総裁誕生に対する中国、韓国の反応
中国外務省は高市新総裁誕生の報を受けて、台湾問題について日中共同声明など過去に合意した4つの政治文書の原則を守るように求める声明を発表しており、「対中強硬派(China hawk)」として知られる高市への警戒心を示している。(2025年10月4日付「高市新総裁に中国外務省「理性的な対中政策を」歴史問題や台湾問題に言及」『テレ朝News』)
また自民党総裁選の結果を受け韓国メディアも高市“女性安倍”と呼び、高市政権により「韓日関係が史上最悪だった“安倍時代”に回帰すると憂慮する声もある」と報じている。(「自民党新総裁に高市早苗氏 韓国メディア「“女性安倍”高市氏」と速報」2025年10月4日付『QテレNews』)
日本が国際社会で取るべき姿勢とは、すべての国を等しく『他者』として尊重し、誠実に関わることである。それはまず外交の場において、いかなる国に対しても『価値観を共有する友邦』などという幻想を抱かず、潜在的な敵である『他者』とみなすリアリズムに徹することを意味する。そのうえで、外交儀礼に則った敬意を払い、相手を仮想敵として扱うことなく、共役不能な価値観の根本的な違いを前提に、悪魔化することなく妥協点や落としどころを誠実に模索し続ける姿勢が求められる。次いで国民個々人のレベルでは、外交官、旅行客、ビジネスマン、移民、難民などの区別なくいかなる国の出身者であれ法的に平等に扱い、差別待遇、虐待、迫害、誹謗中傷などを行わないということである。
◾️10.排外主義を煽るポピュリズムを生んだ構造的要因
とはいえ筆者は、高市的なものとして表象した反グローバリズム、排外主義を悪、石破的なものとして表象したコスモポリタニズム、対中韓融和を善と見做す善悪二項対立的な観方を取っているわけではない。
むしろ高市が親和的とされる参政党系の国粋主義・差別主義・排外主義を煽るポピュリズムの浸透は、いわば「上部構造」の現象にすぎない、と考えている。日本では1990年代のバブル崩壊以降、政治の機能不全、人口減少に伴う社会保障負担の増大、技術革新の遅れ、国際的影響力の低下が複合し、構造改革の先送りによって「失われた30年」が定着した。そうした長期にわたる制度疲労が、政治家・官僚・有権者のあいだで短期便益の享受者と長期コスト負担者が分離する負の誘因、政治的モラルハザードを強化し、その帰結としてポピュリズムが増殖する結果となったのである。つまり日本の右傾化や反グローバリズム、排外主義は原因ではなく結果なのである。それゆえそうした「下部構造」の問題を放置したまま、これらを道義的に糾弾しても実効性は乏しい。
私見によれば日本が抱える構造的問題は現行の領域国民主権国家システムによって生み出されたものである。それゆえこのシステムの抱える矛盾、不正、搾取構造から目を逸らせ既得権の拡大と維持を考え、システムから受益してきたルールメーカー、支配者たち ―つまりMAGAトランプ政権が「ディープステート」― が提案する第一次トランプ政権登場以来国境を越えて急速に進みつつある反グローバリズム、国粋主義、排外主義に対する「対策」はせいぜい対症療法でしかなく問題の抜本的解決とはならないばかりか、問題を更に深刻化させ悪化させる「麻薬」でしかない。
[6] 「世界国家」とは、「社会解体の兆候であるが、しかし同時にこの解体を食い止め、それに抵抗する企て」であり、「いったん樹立されると、あくまでも執拗に生にしがみつく」「むしろ死にそうになっていてなかなか死のうとしない老人の頑固な長命」「社会解体の過程の一局面を代表する」ものである。トインビーはこの「世界国家」について、外部の「観察者から見れば、その世界国家がちょうどその時期に断末魔の状態にあることを疑うことなく示すいろいろな事件が起きているにもかかわらず」、内部的にはそれらの市民は自分たちの「地上的な国家が永久に存続することを願うばかりでなく、この人間の制度が不死を保証されていると実際に信じて」いる、と述べている。トインビー『歴史の研究2〈サマヴェル縮刷版〉』社会思想社1989年、333-335頁参照。 [7] アメリカ主導のグローバリゼーションの挫折については、田所『世界秩序 グローバル化の夢と挫折』「第3章.アメリカ主導のグローバル化 3.勝利の逆説」91-101頁参照。 [8] 菅野覚明「「アジアの一員」の意味するところ」『表現者 クライテリオン』2025年5月号121頁参照。