自民党新総裁・高市早苗、公明党の連立解消で排外主義ポピュリストへの接近と政界再編。一挙に右傾化が加速する危険性大【中田考】
《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第1回】
◾️11.西欧近代文明と領域国民主権国家システムの矛盾
『みんかぶマガジン』で指摘したことの繰り返しになるが、現行の国際秩序が抱える最も明白な構造的問題は、西洋列強が力尽くで全世界に押し付けた自由、平等、人権などの近代世俗主義的政治理念と領域国民主権国家概念の間の根本的矛盾である。ただ貧しい国に生まれただけで豊かな国の人間なら自由に行ける国々に行くことも、そこで働くことも、良い教育や医療を受けることもできず、時には清潔な水と食べ物を得ることすらできない「国籍による差別」を認める国が唱える平等とはいったい何なのか。
女性がアメリカ大統領になれないのが男女差別で人権侵害なら、アメリカ人にしかアメリカ大統領になれないことは国籍差別で人権侵害ではないのか。アメリカによって一方的に空爆され殺されているイランの民衆がアメリカ大統領になる権利も選ぶ権利もないことは国籍による差別で人権侵害ではないのか。
19世紀以来、あからさまな自由、平等の侵害を、国境や国民を神聖視することで正当化し、自由や平等の侵害を国家主権によって合法化し、主権独立の名の下にそれぞれの国家の支配階層が国内で自由や平等や人権を犯して不正な利益を貪っても他国は干渉してはならないことが国際法とされてきた。そういった世界の支配階級のトラストが領域国民主権国家システムの本質であり、その談合のルールメーカーが欧米列強であった。
ところがアジア・アフリカ諸国が経済、軍事、科学技術力をつけたことで、トラスト(G7>国連安保理>国連)の「市場支配力」が弱まった。その上に、トラストの太っ腹な大親分であったアメリカが相対的に貧しくなり、他のメンバーが言うとおりにならないことにへそを曲げて、「今までの恩を忘れて逆らうならもう面倒はみてやらない、好きなようにやる」といわば「ジャイアン化」した。さらに覇権国が同盟内合意を軽視し単独行動に傾く傾向が強まり、トラストが崩壊の瀬戸際にある。これが世界の現状である。
この世界の現状において、友邦を有さない孤立文明の世界国家である衰退する“帝国日本”が右翼、排外主義のポピュリストの高市を首相に戴いて凋落の加速化を避けることは極めて難しい。しかしいかに困難であろうとも成すべきことは、世界と日本の現状を正確に把握し、所与の状況で何が出来るのかを見極め、可能な限りのソフトランディングの道を模索する以外にはない。
◾️結語.ニヒリズム、人神の多神教と交替一神教
しかし実のところ、私たちが目にしているリベラルな国際協調主義の西欧の右派陣営と権威主義、排外主義のグローバルサウスの左派陣営の対立は、表層的なものにすぎない。事態の本質は、ニーチェが『権力への意志』の中で「私が語るのは、これからの二世紀の物語である。私は、来るべきもの、もはや避けられないものを描いている ― ニヒリズムの到来である」と予言した「ニヒリズムの二世紀(20/21世紀)」の後半、ニヒリズムの顕在化、「神の死」後の世界において苦悩や葛藤を避け、「安全」「健康」「快楽」「平均化」だけを求める「末人(der letzte Mensch)」が跳梁跋扈する世界である。
筆者はニーチェが剔出(てきしゅつ)した「末人」のニヒリズムの問題をイスラーム学、宗教学の立場から、「人神の多神教」、「交替一神教」の問題として捉え直す作業を続けている。次回以降は、日本の政局の具体的な問題を手掛かりに、宗教地政学の立場からその国際関係論的意味を論ずると同時に、宗教学的な次元の開示をも試みたい。
文:中田考