自民党新総裁・高市早苗、公明党の連立解消で排外主義ポピュリストへの接近と政界再編。一挙に右傾化が加速する危険性大【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

自民党新総裁・高市早苗、公明党の連立解消で排外主義ポピュリストへの接近と政界再編。一挙に右傾化が加速する危険性大【中田考】

《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第1回】

 

◾️7.国粋主義、排外主義的ポピュリスト政権の成立

 

 事実、迷惑系ユーチューバーで奈良市議のへずまりゅう(@hezuruy 本名:原田将大)は、高市当選の報に接するや否やⅩに「高市早苗さんおめでとうございます。自分は貴女が総理大臣になるとずっと信じておりました。奈良公園の外国人鹿さん暴力事件については報道のデマをこの数日で証明しました。鹿さんの件でネガティブなこという人が増えこの一週間は高市さんと共に戦っている認識でやって参りました。本当に良かった」と投稿している。

 

元ユーチューバーのへずまりゅう・原田将大

 

 また『フォーリン・アフェアーズ』が指摘する通り、清和政策研究会(安倍派)や志帥会(二階派)は政治資金パーティーの収入を明確に派閥に報告せずノルマ超過分をキックバックとして受け取った裏金問題の政治腐敗の撲滅も済ませていない。その旧安部派の支持を得て安倍政治の継承者を称する高市を新総裁に付けた自民党は、もはや回復不能なまでに政治倫理が根腐れしている。与党が上下院で過半数を割って弱体化した自民党は、参政党や保守党やへずまりゅうのような極右のポピュリストの排外主義者のデマゴーグたちと連立するか、自民党自体が極右排外主義者たちに迎合して大衆を扇動することで党勢の回復を目指して次回の選挙に臨むしか選択肢は残されていない。

 2025年7月の参議院選の結果、与党が両院で過半数を割ったことで政局が不安定化し、新興勢力がキャスティングボートを握り政界再編により分極的多党制に移行し、極右の参政党、保守党、右派の日本維新の会が17議席を増やしたのに対し、左派(護憲、平和主義)の共産党と公明党が10議席を減らし日本の右傾化が鮮明になった。そして「石破下ろし」による高市新総裁の誕生によって、2025年8月24日付の『みんかぶマガジン』で述べた通り、日本は分極的多党制の下で参政党などの極右勢力がキャスティングボートを握り、国粋主義、排外主義的ポピュリスト政権が成立する可能性が高い。

 高市は公明党との会談の中で、中国や韓国の強い反発を招く靖国神社秋期例大祭の参拝を見送り外交問題化を回避する方向で調整を試みた(2025年10月7日付『NEWS jp』)。常識的な判断であったが、既に海外で定着している極右国粋主義者のイメージが払拭されるかは疑問である。高市は2021年の総裁選挙に際して靖国参拝を続けると明言したことは海外でも報じられており[4]、食言でかえって信頼を失う可能性さえある。

 そして公明党に配慮して例大祭靖国参拝を見送ったにもかかわらず、裏金問題への対応で公明党との溝が埋まらず連立与党が解体されたことで(「自民党・公明党の連立が「解消」企業団体献金の規制強化で隔たり」2025年10月10日Livedoor News)、現在の分極的多党制における政局の混迷が深まることになった。それによって参院選で国内外での分断と対立を煽る排外主義ポピュリスト諸勢力に投票した有権者たちなどからはSNSで高市の日和見と指導力の欠如への批判の声があがっており、保守勢力を自民党、与党陣営に取り込む目論見は失敗に終わったとみなさざるをえない。その結果として高市は神道政治連盟や右派のメディアや論壇などの政治活動のプラットフォームで支持者が重なる参政党や保守党との閣外協力を模索するといった排外主義ポピュリストへの接近による政界再編を目指すしかなくなり、一挙に右傾化が加速する可能性が高まった。

 

会談に臨む自民党の高市早苗総裁と公明党の斉藤鉄夫代表(2025年10月10日)

 

 また高市と統一教会のとの関係も高市政権が抱える外交的リスクの一つである。統一教会は現在、東京地裁から宗教法人法に基づく解散命令が発出されているが(教団による抗告中)、本国の韓国でも2025年9月に韓鶴子総裁が政治資金法違反などの容疑で逮捕され尹錫悦政権との不透明な関係への教団の政治工作が表面化し国際的に問題視されている。ところが高市は統一教会系のメディア(Unification Church-affiliated newspaper)『世界日報』などに度々登場し長年にわたる深い関係が報じられており、韓国での韓総裁の逮捕を機に高市が旧統一教会と関係を持っていたことへの国際的批判が高まる可能性があるからである。[5]

 

[4] Cf., Isabel Reynolds, “Premier Hopeful Charts Collision Course With China”2021/09/28, Bloomberg.

[5] Cf., Jake Adelstein, “The Rise of Japan’s Female Trump”, Tokyo Paladin with Jake Adelstein, 2025/10/04.

 

次のページ孤立文明の世界国家“帝国日本”の取るべき道

KEYWORDS:

オススメ記事

中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

日本崩壊 百の兆候
日本崩壊 百の兆候
  • 適菜収
  • 2025.05.26
宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編 (ベスト新書 616)
宗教地政学で読み解くタリバン復権と世界再編 (ベスト新書 616)
  • 中田考
  • 2024.09.21
タリバン 復権の真実 (ベスト新書)
タリバン 復権の真実 (ベスト新書)
  • 中田 考
  • 2021.10.20