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アフターコロナにやってくる年金財源消失と長期株価低迷時代の恐怖

日本の年金の危機

 こうした各市場の主要指数の騰落率から試算すると、昨年末時点で168兆9897億円であったGPIFの資産は3月末日時点で18兆円以上減少し151兆円前後まで落ち込んでいる可能性が高いです。市場運用を開始した2001年度以降、GPIFの収益(正確には保有資産の増減)は株式市場の状況によって大きく変動してきましたが、これまでの最大損失額は2018年10-12月期の14兆8038億円です。今回の株価下落に伴う資産消滅額はこの額を20%以上も上回る、大規模なものになっている可能性が高いのです。

 GPIFが運用で多額の損失(資産を減らす)を出したことに関しては、『年金は長期運用』という理由で問題ないという意見も根強くあります。10-12月期に15兆円近い資産を失った2018年度の実績が、年度を通しては2兆3795億円資産を増やしたこともこうした見方の裏づけとなっているのでしょう。

 しかし、『年金運用=長期運用』という考え方は過去のものです。なぜなら、景気悪化と少子高齢化の進展で、現役世代から徴収する年金保険料と税金だけでは年金世代の年金給付が出来ず、運用資産を取り崩す日が近づいているからです。長期運用だから問題ないというのは、あくまでもGPIFの運用資産が増え続けるという前提を踏まえたものです。

 これまで年金給付は原則として年金保険料と税金で賄われ、GPIFの資産は使われてきませんでした。そのためGPIFが多額の損失を計上しても『年金給付に直ちに影響はない』状況が続いていました。それが、年金保険料と税金だけで年金給付を賄えなくなり、GPIFの資産を財源として使うようになれば話は違ってきます。

 現役世代が負担している年金保険料と税金は景気に連動しています。景気が想定以上に悪化して、年金保険料と税金が減ってしまえばGPIFの資産を年金給付の財源として使用する必要が高まります。そして景気が悪化すればするほどGPIFの資産を取崩さなければならない時期が早まるということになります。

 GPIFの資産が年金給付の財源として取り崩されることになるということの影響は、『いくらもらえるのか』という年金給付の問題だけにとどまりません。GPIFが巨額の運用資産を現金化する際に市場に与える、インパクトの大きさを考えてほしいのです。

 GPIFが株式の売りに転じるとわかれば、市場は先回りして売りに動き、株価はさらに下落するでしょう。つまり、ただでさえ下落傾向にある株式市場で『世界最大の機関投資家』と呼ばれ市場を支えていたGPIFが売手に回るとなれば、投資家の売りを招き、株価の低迷が長期にわたって続くことにもなりかねません。またそうした状況になっても、GPIFは年金給付の財源を確保するために資産を取り崩し続けるしかありません。すると年金財源の余命を、一気に縮めてしまう可能性があるのです。これが私の心配する、最悪のシナリオです」

 日々感染拡大が報じられ、生活の隅々にまで影響を与えている新型コロナウイルスは、日本の年金にまで影を落としている。いま私たちが支払っている年金は、必ずしも将来の確かな給付に直結するとは限らない。昨年「老後資金2000万円問題」が報じられたことは記憶に新しいが、私たち現役世代は、これからよりシビアに将来設計を行う必要があるのは間違いないようだ。

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近藤 駿介

こんどう しゅんすけ

1957年東京生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。野村投信(現野村アセットマネジメント)のファンドマネージャーとして25年以上にわたり、株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資などの運用を経験。現在は、不動産、ITなど複数企業の顧問を務めながら、評論家、コンサルタントとしても活動。「WORLD MARKETZ」(東京MX2)のレギュラーコメンテーターを務めるほか、「新報道2001」「バイキング」(ともにフジテレビ)、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)などのテレビ番組に出演。また、「週刊文春」「週刊ポスト」などにもコメントを提供。著書に『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社、2018年)がある。

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