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落合陽一×中谷一郎「もうすぐロボット界のスティーブ・ジョブズが現れる」

本当のロボット社会 第3回 メディアアーティスト・落合陽一×JAXA名誉教授・中谷一郎

ここ数年、人工知能の進化によって「人間の仕事が奪われる」という議論が話題になっている……。一方で私たちの関心は、どのような仕事が、どのくらいの時期に消えていくのかという、実際に身の回りに起こる変化だろう。
JAXA名誉教授・中谷一郎氏は著書『意志を持ちはじめるロボット』(ベスト新書)で、30年のあいだに人間が雑用から解放されること、300年後には人間がロボットと融合した新種生物「ヒューロ」が誕生することを予測する。かたや、超技術の数々が生まれる新たな時代「魔法の世紀」を提言するメディアアーティスト・落合陽一氏はロボット社会に何を見るのか?
来たるべきロボット社会における、人間の生き方と役割を語ってもらった。

コンピューターの世界は「思想」がブレイクスルーを起こした

 

中谷:落合さんの『魔法の世紀』を読ませていただいて、「映像の世紀」「魔法の世紀」とかそういう時代評価が面白かったんです。ただ違和感があったのは、個々のエンジニアとかアーティスト、研究者は大きな時代の流れを意識したうえで、何かを研究しようという感覚はあんまりないんですね。
 私の本でも「ロボット革命」なんて書きましたけど、ロボット革命を起こそうとして研究してる研究者なんて一人もいないんです。みんな時代の括りなんか考えずに、ただ面白いからやっている。後からまとめてみると時代の括りはできるかもしれませんけど、そういう思想ありきで考えるのに違和感があったんです。

 

落合:分野によるのかもしれません。コンピューターの分野は比較的、時代性のある論文が最初に出てきやすいんですよ。それはハードウェアとかの代替スピードがものすごい早いので、次の5年のインタラクションを考える、みたいな論文が書かれやすいのかもしれませんね。
 たとえばユビキタス・コンピューティング*1の父、マーク・ワイザーが書いた論文って、ユビキタス・コンピューティングを作ったわけじゃなくて、そうなりますよっていう論文なんです。つまり最初に何らかのテーマを言い出して、実際にやってみる、ということをやりがちなんですよ。

 

中谷:なるほど、思想が先にあるわけですね。

 

落合:思想が先にある。なぜかと言うと、半導体の分野では「ムーアの法則」*2が適用できたので、思想を作ってから半導体の性能向上を待つ、ということを繰り返していたんです。たとえば、10年以内に8Kの放送機材が出てくることは間違いないじゃないですか。そうしたら8Kの放送機材があったらできることを先に考えて研究していくというスタンスです。
 超臨場・超解像度・超高転送な分野に最初に名前をつけて作っておくと、ちょうどいいタイムスパンで研究と実装が合わさるっていうことはありますね。それによって、コンピューターの分野では70年代から特にジャンプもなく、シームレスにモノができてきている。もちろん、アラン・チューリングがコンピューターを作っていたころみたいに、黎明期もあったんですけどね。

 コンピューターの分野はいち早く産業化して、巨大産業になってしまったのでそういうことが言えるんですけど、ロボットの場合は、まだロボット界のスティーブ・ジョブズ、ロボット界のインテルがいないので、しばらく時間がかかると思うんですね。
 もちろんファナックの工業機械とか、デンソーのロボットアームとかいいものはいっぱいあるんですけど、消費者と市場が相乗効果で進歩していく法則が、まだムーアの法則ほど決まったものがあるわけではない。逆に言えば、そのあたりがそろうと、もっとビジョンドリブンなものが出てくるような気がします。まだリサーチが重要なんですね。

 

ロボットはまだまだ黎明期にすぎない

中谷:そうですね、まだロボットは本当に初期の段階ですね。ロボットで出たペッパーは、コンピューターで言うと1950年代のUNIVAC Iくらいかな。ようやく商用のものが出てきたんです。でもペッパーはまだ100万円もするから、家庭に便利だから主婦が買いましょうという段階ではない。これからいろんな方向性とか必要が出てきて、すごい勢いで広がっていくと思うんですけど、今はまったく見えていない。

 

 

落合:まだ黎明期ですよね。UNIVAC Iが出てくる前のそういった論文は、有名どころだと1945年のヴァネヴァー・ブッシュの「メメックス(memex)」くらいしかないと思うんです。コンピューターを使ってハイパーテキストとかを作ってデータをつなげていけば、きっと便利になるだろうみたいな論文ですね。その後の70年代以降からは、コンピューターを使って○○をするべきだ、というアプリケーション主体で考えることが当たり前になっていった。
 でもロボティクスの場合はアプリケーション主体で考えても、それを実行するためのアクチュエータとセンサがない、もしくはそのためのハードウェアがない。そういうインフラが整ってくると、そこからは使い方勝負になってくると思うんですね。

 

中谷:そうですね。使い方を誰が考えるのか、というところまではもうちょっとですね。

 

落合:あと5~6年、10年くらいですかね。でもルンバってもう「哲学」じゃないですか。だってアイロボットの展開を見てるとプール用のルンバが出てきたり、徐々に生息範囲を拡大してますよね(笑)。しばらくの間は二輪式ロボットで人間の雑用を減らしていくんだろうと思います。
 ドローンもクアッドコプターだけの時代が終わったら、もっと思想が出てくると思いますよ。こないだアルス・エレクトロニカのフェスティバルに行ったら、ドローンが100台飛んで花火のような演出をやっていて、キレイでしたね。ドローンはやっとそういうオーダーに落ちてきましたけど、二足歩行ロボットはまだまだそこまで落ちてきてません。
 ただ、ペッパーを作ってるアルデバラン社もアプリケーション特化だと思います。ペッパーにも小さいやつがいて、それぞれ全部違うラインナップなんですけど、全部人とのコミュニケーションに特化している。30、40年の研究があってこそ、やっとこういうものが出てきたな、という感じです。いまはまだロボットを作るプラントは存在しないので、問屋制家内手工業で作っているところが多いんです。ICとか液晶のように、人間が一切手を触れずに作れるところまでくると、ロボットにはいい時代だなと思いますよ。

 

中谷:ええ。ロボットの夜明けは近いと思います。今日はどうもありがとうございました。旧世代と新世代がこんなに話が合うとは思わなかったですね(笑)。もっと大激論になるかと思っていたので。

 

落合:中谷先生は考え方が宇宙ロボットに振り切れているところが本当にすごいなぁと感動しました。こちらこそありがとうございました。

 

編集部注
*1 ユビキタス・コンピューティング……いつでも、どこでも、だれでもコンピュータを利用できる環境。机や服、壁など至るところに小型チップが存在し、ユーザーが必要に応じてそれらにアクセスできる。

*2 ムーアの法則……インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアが、1965年に自らの論文上で唱えた「半導体の集積率は18か月で2倍になる」という半導体業界の経験則。半導体の性能が指数関数的に向上することを示した。

 
落合陽一(おちあい・よういち)
1987年生まれ。筑波大助教。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)認定スーパークリエータ。超音波を使って物体を宙に浮かせ、三次元的に自由自在に動かすことができる「三次元音響浮揚(ピクシーダスト)」で、経済産業省「Innovative Technologies賞」を受賞。2015年には、米the WTNが世界最先端の研究者を選ぶ「ワールド・テクノロジー・アワード」(ITハードウェア部門)において、日本からただひとり、最も優秀な研究者として選ばれた。
中谷一郎(なかたに・いちろう)
1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。

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なかたに いちろう

1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。


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