落合陽一×中谷一郎「どれだけロボットが進化しても、人間は雑用から解放されることはない」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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落合陽一×中谷一郎「どれだけロボットが進化しても、人間は雑用から解放されることはない」

本当のロボット社会 第1回 メディアアーティスト・落合陽一×JAXA名誉教授・中谷一郎

ここ数年、人工知能の進化によって「人間の仕事が奪われる」という議論が話題になっている……。一方で私たちの関心は、どのような仕事が、どのくらいの時期に消えていくのかという、実際に身の回りに起こる変化だろう。
JAXA名誉教授・中谷一郎氏は著書『意志を持ちはじめるロボット』(ベスト新書)で、30年のあいだに人間が雑用から解放されること、300年後には人間がロボットと融合した新種生物「ヒューロ」が誕生することを予測する。かたや、超技術の数々が生まれる新たな時代「魔法の世紀」を提言するメディアアーティスト・落合陽一氏はロボット社会に何を見るのか?
来たるべきロボット社会における人間の生き方と役割を、全3回に分けて語ってもらった。

「人間が雑用から解放される」という間違い

 

落合:『意志を持ちはじめるロボット』を面白く読ませていただきました。僕は今メディアアーティストという肩書で筑波大学の助教をやらせてもらっています。今日はお聞きしたいことがありまして、中谷先生は40年前もロボット研究をやっていらっしゃいましたよね。40年前と今のロボットで、もっとも違うのはどこですか?

 

中谷:40年前はロボットなんていうことは全然考えてなかったんですね。「なにか面白い自動機械を作ってやろう」ということです。特に宇宙の果てで、人間がいなくても勝手に動くような自動機械を作りたかった。そのあと、世の中がロボット、ロボットと言い始めて、これはロボットという名前をつけたほうがいいかなと、そういうステップですね。

 ですから、私も本の中で「ロボット革命」という名前をつけましたけど、研究者は決してロボットで社会を変革させてやろうとは考えていないんです。作ったロボットが人間とインタラクション(相互作用)したら、何かとんでもないことが起こるかもしれない。そういう内から湧き出てくる興味で動くんですよね。理念はあとから色んな風につけられますからね。40年前の技術がそんなことを目指してやるはずがありませんから。

 

落合:数学者のノーバート・ウィーナーが『サイバネティクス』を書いたのは70年も前ですよね。今あの本を久しぶりに読んでみると、確かにインターネットのようなエコシステムの概念がまだあまり入っていないんですよ。
 要は制御理論で記述できる時定数で実装できるようなものとして捉えられているんですけど、今のロボットを実際に制御するのは通信インフラをもとにした離散系や機械学習や統計処理ですよね。ネットワークで繋げて処理するものなんですけど、インターネット・ユビキタス社会になってかなりアップデートされて一周した。
 ウィーナーが言っていたような、人間も通信制御機械だし、ロボットももっと知能を持って動くというのは、あらゆるものが物理現象からいったん切り離しになった今、プログラミングやアルゴリズムの話に戻ったことによって、かなりうまく動くようになったのが、今の時代かなと思っています。

 

中谷:キャッチボールなんですよね。すごい先端的な技術と、ある種の興味のようなものがキャッチボールをして、段々いつの間にか時代が進んでいる。「ロボット革命」も今まさに進んでいますし、あと30年くらいで急激に進むでしょうね。
 私のような研究者はもっと長期的なスパンで物事を見ているのですが、人々の関心は「人間が雑用から解放される」とか「職業が奪われる」といったところの方が強いですね。

 

落合:そうですね。いつの間にか時代が進んできたな、という印象は覚えています。ただ僕は、人間は最終的には雑用から解放されないと思っています。もちろん雑用は日々減っていくとは思いますけど、そうすると新たな「雑用」の定義が生まれてくるんじゃないでしょうか。
 1957年に『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン著)という小説が発行されたんですけど、そこでロボットが最初にやることになったのは家の掃除なんですよ。人工女中を作るというのが目的で、やっぱりみんなが持っている印象は昔から変わらない。雑用から解放されたいんです。それで徐々に雑用がハイレベルになってきて、今ではメールを返すことや予定を調整することが雑用になっている。それも4~5年以内には、メールを受けたら勝手に予定として挿入されるようになって雑用じゃなくなる。そうやって永遠に新たな「雑用」の定義が出てくると思います。

 

中谷:雑用の定義が次々に変わってくるでしょうね。

 

落合:要は、テクノロジーの対極に人間がいるという定義で、テクノロジー側に近そうなものを雑用と定義している気がしますね。現代人はまず、人間はロボットと違うと考えるので、ロボットにできそうなこと、コンピューターにできそうなことを雑用と呼んでいる。時代が変わるにつれて、テクノロジー寄りの物事は雑用と呼ばれるようになっていきます。
 でも中谷先生が書かれていたように、きっと人間性はアップデートされて人間観は変わっていくので、テクノロジー対人間の定義もまた変わるとは思います。雑用は深い言葉ですよ。

 

中谷:ここ30年くらいはコマーシャリズムに乗って、いわゆる「雑用」を対象にしたロボットがどんどん進んでいくでしょうね。家電メーカーはロボットに掃除させる、洗濯させる、子どもの面倒を見させる……というすごい研究をやっています。人間がやってもらいたいような仕事に対して、メーカーがそれを引き受ける便利なロボットをどんどん作って売っていくでしょうね。

 ただ、『意志を持ちはじめるロボット』の核心は「雑用がなくなる」というところの先ですね。100年~300年先にはロボットが人間に近づき、人間がロボットに近づいて、もっと高い次元のロボットが出てくるだろうということです。

 

落合:ロボットと言うと、世の中の人は身体性のあるロボットを考えますけど、別にロボットに身体性は関係ありませんからね。身体性がなくなれば、人間とロボットを区別するものはなくなるので、人間とロボットが融合したものに名前をつけようという中谷先生のご発想はその本質だと思います。

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中谷 一郎

なかたに いちろう

1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。


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