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落合陽一×中谷一郎「どれだけロボットが進化しても、人間は雑用から解放されることはない」

本当のロボット社会 第1回 メディアアーティスト・落合陽一×JAXA名誉教授・中谷一郎

宇宙ロボット研究が地球を変える可能性

 

中谷:宇宙ロボットで開発されているような先端的な技術が地球に戻ってきて、地上ロボットの技術開発に役立つような形で進んでいくでしょうね。宇宙にはお金も時間もリサーチャーも湯水のようにかけますし、ロボットを火星に行かせようと思ったら「自律性」を開発せざるを得ない。地球と火星では電波の往復に40分かかる場合もあるので、ロボットを動かそうと思ったら人間は介入できませんから。そこで開発される「自律性」は贅沢じゃないわけです。

 

落合:同意見ですね、極限環境でやったものの方が動作保障・リスク管理などは絶対に上ですから。極限環境という意味ではミリタリーと宇宙なんですけど、日本はミリタリー研究がそんなに進んでいないから、やっぱり宇宙研究が強いですよね。ミリタリーの自律性の場合、地球は今十分に電化されているので、どこでもインターネットにアクセスできるんですよね。だけど宇宙はインターネットにまだアクセスできないから、自律性がはるかに高いものを作らないといけない。でも先に火星の近くに衛星を飛ばしたほうが早いんじゃないかとかリサーチャーが考えてたりするのを聞いたことがあります。

 

中谷:自律性ともう一つ宇宙ですごく進むと思うのは、アクチュエータ、センサ系ですね。もちろんプロセッサは大事で、地球とタイアップしてどんどん進めなければいけないんですけど、特にアクチュエータは非常に小さくて、信頼性の高い、エネルギーを食わないものをつくらないと宇宙ではほとんど使えない。
 たとえば火星に有人基地を作ろうと思ったら、まずロボットを行かせますから、そこでアクチュエータの問題は浮上してきます。小さくて信頼性が高くて、エネルギーを食わないアクチュエータができれば、地球上でものすごくロボットの役に立つわけですね。そういう意味では、宇宙はハードウェアの面からもものすごく先端的だという気がしますね。

 

落合:低消費電力は本当に肝ですよね、しかも宇宙だと放射線を食らうので、ほかもいろいろあるでしょう。

 

中谷:高温・低温・高放射線だとかいろんな厳しい条件がありますからね。宇宙ロボットを研究している仲間たちも、ものすごく面白がってやっていて、それでロボット革命を起こそうとか地球の役に立とうとかまったく考えていないんですけど、結果的にはそれが地球の社会にインパクトを与えるんじゃないかと思いますね。宇宙はロボットが自分で判断して、自分で新しいことをやっていかないと成立しない、そういう世界ですね。

 

落合:僕らの寿命はインターネットからすると、ハツカネズミぐらいですからね。人類はそういう寿命の長い種族もしくは生態系を自分たちで作った。だからたとえば火星の建築は、ロボットにちょっと頑張ってもらおうよ、くらいの印象で任せた方がいいのかなと思います。要するに、100世代くらい経ると、火星に何かできているらしいと。人間は火星から送られてきた中間報告に予算のサインをするだけで、実際はロボットが進めているというのは大いにあると思います。江戸時代から考えれば六本木ヒルズだって、僕らが10世代くらい交代してようやく建ったものですから(笑)。

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落合陽一(おちあい・よういち)
1987年生まれ。筑波大助教。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)認定スーパークリエータ。超音波を使って物体を宙に浮かせ、三次元的に自由自在に動かすことができる「三次元音響浮揚(ピクシーダスト)」で、経済産業省「Innovative Technologies賞」を受賞。2015年には、米the WTNが世界最先端の研究者を選ぶ「ワールド・テクノロジー・アワード」(ITハードウェア部門)において、日本からただひとり、最も優秀な研究者として選ばれた。
中谷一郎(なかたに・いちろう)
1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。

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なかたに いちろう

1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。


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