落合陽一×中谷一郎「どれだけロボットが進化しても、人間は雑用から解放されることはない」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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落合陽一×中谷一郎「どれだけロボットが進化しても、人間は雑用から解放されることはない」

本当のロボット社会 第1回 メディアアーティスト・落合陽一×JAXA名誉教授・中谷一郎

30年より先に訪れる、誰も予測できない未来

 

中谷:まだ人間がプログラムを書いて、人間がロボットを設計している段階ではあまり心配はない。落合さんがよくおっしゃっているように、人間がロボットの一つの端末や周辺デバイスになってしまうことはあり得ますが、その「デバイス人間」の運用ソフトを設計しているのも人間ですからね。そこから先が少し心配だ、というのが私の主な論点です。
 どうしてかというと、ロボットがロボット自身を設計するようになったら、設計基準、つまり人生目的のようなものもロボットが設定します。そうなると、もう人間には次世代のロボットの進化の方向をコントロールできません。ロボットは人間の雑用とか、人間の思想なんて考慮してくれない可能性があります。30年よりもっと先には、人間が想像を絶するようなこと、今までと質の違うことが起こる気がしますね。

 

落合:ほぼ同意見ですね。ロボットがロボットを設計するようにならないと変わらないと思います。結局今「雑用がなくなる」とか「職業を奪われる」と言いますけど、実際には機械が人間を脅かしているわけではなくて、機械に親和性の高い人間が他の人間の仕事を徐々に奪っているだけですから。
 どういうことかと言うと、昔はいろんな分野に専門家がいましたけど、どうやらコンピューターの専門家は、センサとアクチュエータを駆使してデータを集めてしまえば、機械学習でたいていの問題が解けることがわかってきたんです。
 今までは農業の専門家がフィールドワークで調べていたことを、衛星から写真撮って調べてみましょう、ということをやったら、農業の分野にも通用してしまった。コンピューターを使うと学問や研究の進捗が著しく生まれることがわかったので、今コンピューターを使わない学問ってないですからね。だから実際にはコンピューターやロボティクスを用いた機械学習の専門家が、非専門家の領域を食っている、もしくは協業しているにすぎません。

 

中谷:おそらくあと30年くらいたつと、真の意味で人間を代替するロボットが人口を上回ると思います。それまでは人間がプログラムを書いて、人間がロボットを組み立てる時代が続きますけど、大したことは起こらずに猛烈に便利になるだけです。

 

落合:どこまでをロボットと定義するのかが難しいですけど、アクチュエータかセンサーを持っているインターネットにつながった処理系を持つ個体、というような定義だったら、1~2年以内にロボットは人口を超えちゃうと思いますけどね。定義によってはもうだいぶ超えてるかもしれない。
 最近うちの研究室では3Dプリンターでロボットを出力する、という研究をやっています。これはきわめてソフトウェア的なアプローチでロボットを解く問題なんですけど、ある動きをするCGを自動で設計して、そこに実際に動くサーボと実際に動く関節をはめていって、3Dプリンターで出力するんです。そうすると形は無限にできるんですよね。
 たとえばくまモンをつくろうと思ったら、くまモンに入る骨格っていうのは自動で設計可能で、あとはモーターの最適配置問題になるので、そういうロボットはすぐに市場にでてくると思います。
 ロボットアームが5台くらいあれば、ロボットが物理的にロボットを組み上げるのは普通にできることですけど、そうやって組み上がったロボットは「働きアリ」なんですよ。「女王アリ」はインターネット側にあって、インターネットから出力される末端端末が、働きアリ的に出荷されるという状況はしばらく続くと思うので、その意味でロボットはすごく増えるでしょうね。

 うちの研究室でやってみてわかったのは、「コンピュータから形と機能を出力できること」「実世界の動きがちゃんと撮れること」「アクチュエータと電源が故障なく十分に安いこと」、この3つがキーワードですね。
 頭脳に関してはIoTの端末はもうすごく安くて小さくて、低消費電力でバッテリーも100日とか持つので問題はないんです。でも動くのにエネルギーがすごく必要で、まだ一日に一回充電をしなければいけないし、ロボットが動いたデータがインターネットを取り込むにはまだ個別のカメラだとまだ全然だめ。全面に張ったモーションキャプチャーとかがあってはじめてちゃんと動いているかがわかります。センシングがきちんとできる環境にあると、ロボットは比較的自律的に進歩していくと思います。

 

中谷:インテリジェントルームという研究分野がありますよね。要するに部屋や大きな空間自体を賢くしてしまえば、必ずしもロボットが賢くなくても部屋とインタラクションして、ロボットはかなりスマートに動くんじゃないかという研究ですよね。

 

落合:インテリジェントルームの発想で言うと、今モーションキャプチャーが一部屋囲むのに500~600万円かかるんですけど、それが5万円くらいになってきたら、世の中がガラッと変わると思います。部屋自体がスマホでみればあらゆる長さがわかっている部屋になるので、小学校で定規を教えなくなると思います(笑)。でも最近ではVRゴーグルをつけるのに、家にトラッキングのカメラをつけるのが普通になってきたので、結構早いんじゃないでしょうか。
 やっぱりコスト的にはスマホの方がロボットより圧倒的に安いので、スマホが克服した問題をロボティクスが追従して克服していくかなという印象はあります。そうすると、中谷先生がおっしゃっているような問題はもっと早くなるのかな、という感じがありますね。

 

中谷:技術のサイクルはどんどん短くなっていますよね。コンピューターで言うと、商用で最初の大型コンピューターは1951年に発売されたUNIVAC Iですね。iPhoneが発売されたのは2007年ですけど、バーッと売れはじめたのは2010年くらいですよね。だからUNIVAC IがiPhoneになるまでに約60年かかっているわけです。だけどロボットのサイクルに60年はかからないだろうというのが私の見方ですね。

 

落合:ロボティクスの端末に必要だったのはきっとインターネットアクセスですよね。無線化された端末と、あらゆるところでアクセスできる状態。今はまだ遅延が長いので、実際にロボットの歩行を制御するときにいちいちサーバーに呼び出したりはできないんですけど、その辺の通信系とコストダウンがもっと早くなればすぐだと思います。
 自動運転技術の肝もそこで、自動運転中のパケット通信はちゃんと行われないといけない。もちろん行われなくても事故にならないようにすると思いますけど、極論すれば危ないわけです。

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中谷 一郎

なかたに いちろう

1944年生まれ。JAXA名誉教授、愛知工科大学名誉教授。1972年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。電電公社電気通信研究所に勤務し、通信衛星の制御の研究に従事。1981年より宇宙科学研究所(現JAXA)に勤務し、助教授・教授を務める。科学衛星およびロケットの制御、宇宙ロボットの研究・開発に従事。東京大学大学院工学系研究科助教授・教授、愛知工科大学教授、東京大学宇宙線研究所客員教授・重力波検出プロジェクトマネージャーを歴任した。


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