見てみないフリをする人々。日本崩壊を示す兆候はすでに噴出している【適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第76回
2024年の年末、気が付いたら日本は貧しい国になっていた。道徳も破壊された。街は暗くなり、カスタマーサービスの電話はどこの会社もなかなかつながらない。マイナ保険証、インボイスの導入……どんどん不便な国になる一方、底が抜けた連中が暴走を続けている。近代大衆社会の末期症状を描き出してきた適菜収氏の「だから何度も言ったのに」第76回。人気の長期連載が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊 百の兆候』として書籍化され話題に!

■予知はできないが警戒はできる
地震の後に、「そういえば、前日の空の色が変だった」「見たこともない形の雲が出ていた」「井戸の水が濁っていた」といった声が出ることがある。他にも、地盤の隆起や沈降、海面の変動、温泉の枯渇や異常湧出、温度変化、地鳴りなどもある。ナマズやネズミなど、動物が異常行動を示すという話もある。
現在の科学技術では、地震の発生時期、場所、規模を正確に予測することはできない。それでも注意深く前兆を観測することにより、準備、警戒することはできる。
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これは自然災害に限った話ではない。たとえば、恋人と別れてしまった後で、「あのときの一言はそういう意味だったのか」と後から気づくこともある。
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後悔先に立たず。兆候はたくさんあったのに、そしてそれを肌で感じていたにもかかわらず、具体的に対応しなかった結果、ひどい目に遭ったりする。自業自得と切り捨てるのは簡単だが、「なんか変だよな」と思いつつ、日々の生活に追われるのが人間でもある。
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わが国は崩壊のカウントダウンに入っている。そしてそれは百の兆候に表れている。
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別に大げさな話をしているわけではない。
これまで何度も書いてきたことなので、手短に示すが、三つのメルクマールがある。
一つは2015年の安保法制の際、国を運営する手続が破壊されたことだ。安倍晋三は、お仲間を集めて有識者懇談会をつくり、そこで集団的自衛権を行使できるようにお膳立てをしてもらってから閣議決定し、嘘とデマを社会に投下し、法制局長官の首をすげ替え、アメリカで勝手に約束してきて、最後に国会に諮り、強行採決した。さらには首相補佐官の礒崎陽輔が「法的安定性は関係ない」と言い出した。発言を撤回したとはいえ、これは近代国家としての建前をかなぐり捨てたということである。
二つ目は、安倍政権下で省庁をまたがる大規模な不正が発覚し、責任がうやむやになっていることだ。財務省の公文書改竄、防衛省の日報隠蔽、厚生労働省のデータ捏造、法務省のデータごまかし、国土交通省の基幹統計の書き換え……。国の信頼は完全に破壊された。
三つ目は、2017年、防衛相の稲田朋美が、「(南スーダンの戦闘で)事実行為としての殺傷行為はあったが、憲法九条上の問題になる言葉は使うべきではないことから、(日報で)武力衝突という言葉を使っている」と発言したことだ。要するに国が憲法を無視していることを公言したわけだ。
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これを正常な近代国家と考えるのは無理がある。
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今、社会が疲れ果てている。多くの人がうんざりし、面倒になり、黙り込んでしまう。
その隙を狙って、いかがわしい連中がラストスパークをかけてきた。
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