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国連中心主義という幻想、いや妄想

いま誇るべき日本人の精神 第5回

「日本は近い将来、移民政策を見直す必要に駆られる可能性がある」と国連は考えているというが、そもそも日本人は「国連」という組織をどのように考えているのだろうか。外交評論家の加瀬英明氏から話を聞いた。

  日本では、国連に対して宗教的なといえるような信仰心を、いだいている者が多い。

 

 しかし、もし、戦後、国連を「連合国」と正しく訳し続けていたとしたら、日本で今日のような国連信仰がひろまることがなかったに、ちがいない。残念なことである。
「鰯の頭も信心から」といって、鰯の頭のようなつまらないものであっても、信仰してしまうと、ひどくありがたいものとなるといわれるが、まさに日本の国連信仰に当てはまる。
 日本の地方のなかに、地域興しの一環として、国連機関を誘致することを、望んでいるところがあるが、「連合国」であったとしたら、そうするものだろうか。
 一九七五(昭和五十一)年に、日本政府が税金を使って誘致して、東京に国連大学が開設された。しかし、もし、「連合国大学」だったとしたら、誘致することはなかったろう。
 私自身は、国連に好意を抱いてこなかった。国連は、好意が抱けるような国際機関では、とうていなかった。
 国連の神経中枢は、安保理事会であって、創立当時から、安保理事会で拒否権を持つ、アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国の五つの常任理事国の足並みが揃わないかぎり、国連の意志が麻痺してしまう。国連は国際危機に当たって、頼りになるような存在ではない。

◆国連信仰と非武装中立論への憧れの根は同じ

 日本ではつい五、六年前まで、「国連中心主義」という言葉が、国民の頭を支配していた。
 ところが、困ったことに、「国連中心主義」という奇怪な言葉は、英訳することが、まったくできない。
 首相が施政方針演説を行うと、外務省が英訳して、在京の諸国の大使館に配布する。長いあいだにわたって、首相の施政方針演説のなかに、「国連中心主義」という言葉が、きまったようにでてきた。英訳しようがないために、仕方ないから、「国連を重視する主義」と訳していた。
 国民の多くの者が、「国連中心主義」という幻想というよりも、妄想にとりつかれて、日米防衛関係や、日本独自の防衛努力を軽くみてきた。
国連は、五つの常任理事国の意志が一致しないかぎり、機能しないから、中心を欠いている。
「国連中心主義」といってみたところで、いったい中心がないものを、どうして中心にすることが、できるものなのだろうか。中心がないものに、寄り掛ったとしたら、大怪我する。滑稽だとしか、いえない。
 国連はスロットマシンに、よく似ている。
 スロットマシンは、さまざまな果物の絵があって、把っ手を引いて、同じ果物の絵が一列に並ぶと、当たりになって、硬貨が出てくる。
だが、よほどの僥幸に恵まれないかぎり、同じ絵が一つに並ぶことはない。
「平和外交」という言葉も、英語に訳することができない。外交は、平和的な手段を用いて、交渉することだ。
「馬から落ちて、落馬した」というようなものだ。戦後の日本人は、何でも上に「平和」をつけさえすればよいと、思っている。
 安保理事会の五つの常任理事国には、「拒否権」が与えられており、自分にとって都合の悪い決議を、葬ることができる。
 中国か、ロシアが日本に対して攻撃を加えた場合に、日本が国連に訴えて、泣きついたところで、中国か、ロシアが、かならず拒否権を行使するから、国連は日本を見殺にする。
 これまで、日本に国連信仰が根を張ってきたが、非武装中立論に対する憧れと、同じものだった。
 アメリカが、国連の産みの親だった。国連が結成された時には、世界平和にとって重大な問題について、安保理事会の五つの常任理事国が協調することを、前提としていた。
大戦後は主要国が、同じ価値観を分かち合うという、大戦が終結する直前のアメリカの誤った楽観から、生まれたものだった。
 国連も、人間が作ったものであるから、まさか、神性を帯びているようなものではない。
 国際政治も、子供の世界も、まったく変わらない。そう思ったほうが、国際政治をよく理解できる。

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加瀬 英明

かせ ひであき

1936年東京生まれ。外交評論家。慶應義塾大学、エール大学、コロンビア大学に学ぶ。「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長。1977年より福田・中曽根内閣で首相特別顧問を務めた。日本ペンクラブ理事、松下政経塾相談役などを歴任。著書に『イギリス 衰亡しない伝統国家』(講談社)、『天皇家の戦い』(新潮社)、『徳の国富論』(自由社)、『アメリカはいつまで超大国でいられるか』(祥伝社)、『中国人韓国人にはなぜ「心」がないのか』、『大東亜戦争で日本はいかに世界を変えたか』、『いま誇るべき日本人の精神』(ともにKKベストセラーズ)など。



 


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  • 2016.05.10