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僕にはテーマがない【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第12回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第12回

 

【意味がないものが面白い】

 

 一人で工作室に籠もり、日々暗躍している。修理をしたり、組み立てたり、切ったり削ったりして、ものを作る。上手くいくと嬉しいし、上手くいかないと溜息をつく。だが、目的はない。なにかをテーマにして作っているのではない。だから、人が見たら「そんなことをして何の意味があるの?」となる行為といえる。

 僕から見ると、大勢の人が求めている「意味」というものは、単なる「言葉」でしかない。実体のない「物語」でしかない。でも、悪いとはいわない。偉大な人の言葉でも、アニメの主人公の言葉でも、それを聞いた人の心に響けば、そう、一時的には「意味」が生じるだろう。「テーマ」も、「意味」も、所詮その程度のものだ。

 その言葉を聞いて、心に響いたとおっしゃる当人が、次に何を作り出すのか、という点に僕は注目する。それがその人の「価値」だと思う。テーマや意味などなくても、その価値は面白いし、楽しいし、たまには新しいものを生み出す。その可能性だけで充分だ。

 

書斎の隣のホビィルームにあるHOゲージ(Nゲージの倍のサイズ)のレイアウト(ジオラマ)。これを作り始めるときには、自分で世界を創造するようなワクワク感がある。ものを作ることの価値は、すべてそこにある。

 

文:森博嗣

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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』発売忽ち重版!✴︎

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。どうぞご期待ください!

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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