美空ひばりとジャニー喜多川、大物たちへの手のひら返しバッシング。マスコミの正体は「芸能の敵」である【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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美空ひばりとジャニー喜多川、大物たちへの手のひら返しバッシング。マスコミの正体は「芸能の敵」である【宝泉薫】

 

 ところが、芸能の本質はそんなに大きく変わるものではない。普通とは違うものがウケる、という世界だからだ。それゆえ、社会正義感によって排除されるものが増えれば増えるほど、息苦しくつまらないものになってしまう。不倫で活動休止に追い込まれたり、逮捕で作品が出回らなくなったり。それをよしとする方向で多くの雑誌や新聞、テレビも動くため、ここ数年、マスコミはもはや「芸能の敵」と化してしまった。

 そんなマスコミをひばりは子供の頃から好きではなく「叩かれるから怖い」「悪口言われるんです」などと語っていた。きっかけは、小6のとき「婦人朝日」の特集で「畸型的な大人」などと中傷されことだ。

 特集を仕切った編集長は、のちに劇作家となる飯沢匡。いわさきちひろ絵本美術館の初代館長でもあり、子供には理解がありそうなのが皮肉である。

 その数ヶ月後には、詩人で作詞家のサトウハチローにコラムで「吐きたくなった」「消えてなくなれ」とこきおろされた。まるで近年の「寺田心ね」騒動みたいだが、十数年後、サトウは大歌手となったひばりのために作詞するハメとなる。同様に、飯沢も十数年後「押しも押されもせぬ大タレントにのし上がってしまった」と負けを認めた。

 こうした文化人のなかには、大衆ウケする芸能を低俗なものと見なす傾向が目立つ。それならいっそ、その立場を貫けばいいのに、長い物には巻かれよとばかり手のひら返しをするのである。

 今回の騒動でも、脳科学者の茂木健一郎が醜態をさらした。

「ジャニーズにだまされる人は、芸術の教養が根本的に欠けている」

 と、SNSに投稿。しかし、かつてはSMAPや嵐を絶賛していたことが指摘されると、

「ぼくはこれからも何千回、何万回でも『手のひら返し』をする。多方面から見ないと世界の多様性はつかめないから」

 と、無理筋な言い訳をした。いったい、この脳はどうなっているのか、自分で研究して発表してほしいものだ。

 とはいえ「手のひら返し」は負け組にならないための苦肉の策でもある。ちょっと前までジャニーズに協力的だったマスコミも、手首が折れそうなほど激しい手のひら返しをしている。

 それを正当化するために、事実を歪めることにも迷いがない。たとえば、北公次によるセクハラ暴露をめぐる取り扱いだ。北はその後、この暴露を悔やみ、死の直前にもジャニーへの感謝の念を綴ったが、今回の騒動で「その後」に触れられることはほぼない。法的には無実のままである故人を大悪人にしておくにはそのほうが好都合だからだろう。

 ただ、マスコミのこうした姿勢には、ジャニーズが異形の存在であり続けてほしいという願望も秘められているように思う。普通化しつつある芸能界にあって、普通でない物語を提供してくれる貴重な存在、それがジャニー喜多川であり、その末裔たちなのだ。

 筆者は今年5月、このサイトで配信された記事を、こう締めくくった。

「ジャニーズの芸能文化はそれくらい彼ならではのエロスと表裏一体だった。アンチが心配しなくても、今後は普通の芸能事務所に変わっていくしかないだろう」

 しかし、世間がこの事務所に何か普通でないものを期待している以上、ジャニーズは今後もスキャンダラスな刺激をまき散らす特別な芸能事務所であり続けられるのではないか。少なくとも、東山紀之が引き継いだ本家とふたつの分家(滝沢秀明の「TOBE」と飯島三智が手がける「新しい地図」)をめぐる勢力争いは気になるところだ。

 それにしても、死してなお、世の中をこれほどまでに騒がせるジャニー喜多川のすごみ。それは彼が自らの性的嗜好を世界有数の芸能文化にまで昇華させ、多くの人を愉しませてきたからだろう。

 この騒動はもはや、そんな不世出の鬼才に対する世間からの無意識のオマージュなのかもしれない。

 

文:宝泉薫(作家、芸能評論家)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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