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スマホがなかった時代【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』39品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」39品目

 

 個人的にはテレビはもうほとんど見ない。子供の頃はアホほど見てたし、学生時代から就職してフリーになってからも、家にいるときは何となくテレビをつけていたが、結婚して自宅と仕事場を分けてからは(仕事場にテレビがないので)さっぱり見なくなった。それでも『タモリ倶楽部』だけはちょこちょこ見ていたけれど、同番組が終わった今、阪神戦以外ほぼ見ない(それもリアルタイムではネットで戦況確認するだけで録画を見るのみ)。

 しかし、ちょうどテレビを見なくなった時期のある日、某編集部からの帰りに立ち寄った恵比寿のバーでの体験は妙に心に残っている。今から20年ほど前、まだスマホがなかった頃だ。若者向けで地下にダンスフロアもあるようなDJバーの1階カウンターで飲んでいた。朝方までやってるので校了日などにちょいちょい飲みに行ってた店である。

 ふだんはミュージックビデオが流れているモニターに、その日はアテネ五輪の開会式が映し出されていた。今調べたら、日本時間午前2時45分スタートだったらしく、そこまで深夜じゃなかった気もするが、飲んでるうちにそんな時間になったのかもしれない。

 オリンピック自体にさほど興味はない(特に近年の利権汚染五輪はもうやめればいいのにと思う)けれど、ほろ酔い気分でボーッと眺める。いろんな国の選手団がそれぞれの国旗を掲げて入場してくる。競技じゃないので、緊張感もなくのんびりした感じ。バーテンダーのにいちゃんも、グラスを磨いたりしながらチラチラ画面を見ている。特にこれといった会話をするわけではないが、そこには一人でスマホを見ているのとは違う空気があった。あれはなかなか良い時間だったなと、今もときどき思い出す。

 

文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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