自分が負の感情にのめりこんでしまったとき、その泥沼から脱するきっかけとは?【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第20回
【AV女優を辞めるかどうか悩んでいたときも一緒だった】
そんなときに友人が旅行の計画をたてようと持ちかけてきた。彼女は意識しているつもりはないだろうが、毎回私が嫌な状況を脱したいと思うときに誘ってくる。コロナの流行があったとはいえ、五年の付き合いで一緒に旅をしたのは一度きりで、その一度というのもAV女優を辞めるかどうか悩んで、感情がぐずついているときであった。「あのときは京都に行ったなあ」と懐かしさを感じつつ、今回は私が午後からしか身動きがとれないという状況もあって、近場の熱海を選んだ。崎陽軒のシュウマイまんを分け合うところからスタートした旅は、ほぼほぼ無計画で、その場その場の二人の気分で行先を選んでいたが、全てが心躍るもので、どんなに小さなことでも二人で笑いあっていた。
彼女はよく写真や動画を撮影していた。そこに映る私はどれも屈託のない笑顔をうかべ、これでもかというぐらいふざけていた。「こんな顔してるんだね」とぽつりと呟いたら、「昔からこんな感じだよ。二人でいるときだとしっかり者じゃなくて、おふざけモード入るやん。私はこうやって笑ったり、全力でふざけてたりするのを見るの好きだよ。まあ、色々考えすぎるのは知ってるけど、何かあったときは話してよ、特に何もコメントしないから」そんな心動かされるような言葉を、普段の「お腹すいた。何食べる?」みたいなやり取りと同じトーンで話すので、おかしくなって笑みがこぼれてしまった。そこからは色んなことを話した。帰りの新幹線に乗ることには、これまで何を悩んでいたのか忘れるほどに気持ちが軽くなっているのを感じた。
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✴︎KKベストセラーズ 新刊発売決定✴︎
神野藍 著『私をほどく〜 AV女優「渡辺まお」回顧録〜』
が6月17日に発売決定・予約開始!
✴︎
「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに