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6組に1組の夫婦が行なっている不妊大国、日本のリアル

現在観測 第33回

日本でも不妊治療が増加

 現在、日本は世界でトップクラスの「不妊大国」です。不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は、20~40代夫婦の6組に1組。日本産科婦人科学会によれば、2013年に国内で行われた体外受精の件数は約37万件で、10年前の3倍以上に増えました。
 不妊というと女性の問題と捉えられがちですが、男性側の要因も大きいのです。世界保健機構(WHO)の調査では、不妊原因が男性のみにある場合が24%、女性のみが41%、男女ともが24%、不明が11%でした。
 不妊治療にはいくつかの段階があります。最初は、排卵日を調べるタイミング法を行います。それでも妊娠しなければ、器具を使って精子を子宮内へ直接注入する「人工授精」に移ります。費用は1ヶ月3~5万円で、比較的気軽に受けることができます。
 それでも妊娠しない場合、「体外受精」にステップアップします。「体外受精」は、体の外に採り出した卵子に精子をふりかけて受精させる治療法で、1回30~50万円程度かかります。女性が30代前半までなら、質のよい卵子が多数採れ、1回の体外受精で出産する確率は比較的高い(20%程度)といわれています。
 40代前半になると、出産までいく質の高い卵子が採れる割合は少なく、体外受精の出産率は1回1~8%程度と低くなってしまいます。
 

50歳でも出産できる希望と絶望

「不妊治療は底なし沼」「まるでギャンブル」と経験者は例えます。なぜなら、高齢の不妊患者はなかなか妊娠しないので、繰り返し体外受精を受けるからです。
 人によっては、グレードの高い受精卵ができると希望を持ち、妊娠判定日に絶望的な気分になるというサイクルを繰り返します。それでも、もう1回お金をつぎ込めば「当たり」の卵がでて、赤ちゃんという大きなリターンがあるかもしれない、と思うと治療をなかなかやめられないのです。
 なかには営利目的に走る医師もいるようです。「40代後半は妊娠したとしても出産まではいかない」と医師自身は考えているのに、50歳前後の患者も受け入れ、患者の前では「次回も頑張りましょう」と希望を与えます。毎月1回30万以上かかる体外受精を受けさせ続けるケースもあります。
 とはいえ、体外受精で子を授かるカップルは、2012年の時点で年間約4万件に増えています。今後、日本でも卵子提供が広く行われるようになれば、40代半ばを過ぎても出産の可能性がぐんと高まります。不妊治療が人々に希望を与え続けるわけです。同時に、出産可能な年齢がますます延びることで、いつまでたっても不妊治療をやめられず、絶望的な気分を味わう機会も増えるでしょう。
 

子のない人生も養子も「普通」に

「子どもはまだ?」「もう1人産まないの?」――アラサーを越えたら、家族から隣人まで様々な人から声をかけられるでしょう。結婚して子どもを1人、できれば2人以上持つことが「当然」という見方が社会に依然としてあるからです。
 そういった「子なしハラスメント」ともいわれる行為によって、不妊に苦しむ人々は、自己評価の低下や、男/女としてのアイデンティティに悩まされます。そこで、出産を希望するカップルの多くが、解決法として不妊治療を選択するのです。
 しかし、体外受精をしても結果的に出産できない人は常に存在し続けるため、不妊治療は完全な解決法にはなりえません。先日、女優の山口智子さんが「子どもを産んで育てる人生ではない、別の人生を望んでいました。今でも一片の後悔もない。本当に幸せ」と発言し、多くの女性の共感を呼びました。彼女が明言したように、子どものいない人生もいる人生も同じように「普通」の生き方であり「幸せ」だという見方が主流になってこそ、人々の苦しみは減るでしょう。
 同時に、特別養子縁組を前提に里親に託すいわゆる「赤ちゃん縁組」の制度が広がっていくことを願います。不妊で苦しむ人にとっても、生みの親が育てられない赤ちゃんにとっても、何より大きな希望となるでしょう。

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藤田 結子

ふじた ゆいこ

明治大学商学部教授。東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒、米国コロンビア大学大学院で修士号を取得後、英国ロンドン大学大学院で博士号を取得。2016年から現職。専門は社会学。調査現場に長期間、参加して観察やインタビューを行う研究法を用いる。日本や海外の文化、メディア、若者、ジェンダーなどについてフィールド調査をしている。著書に『ワンオペ育児』(毎日新聞出版)など。


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