「私という良い子ちゃん」の存在を消し去りたい その時目の前にAV女優という手段があった【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第12回
【肉体的な死でなく、社会的な死を望んでいた私】
私がAV女優になったのは、肉体的な死を選ぶことができず、社会的な死を望んだからだ。これはAV女優の社会的地位についての話ではなくて、単純にデビューする前までの「私という良い子ちゃん」の存在を消し去りたいという意味での話だ。
これまでの自分と自分に纏わりついたしがらみ、例えば自分自身が築き上げたものであったり、私につきまとうイメージだったり、それら全て壊して、何もない「無」の状態に戻したかったからである。その手段がたまたまAV女優であっただけで、何か違う方法があったのならその手段をとったのかもしれない。
しかし、偶然にもAV女優という手段が、限界に達していた私の目の前に現れて、藁にも縋る思いで手を伸ばした。今考えると安易だったのかもしれないが、そのころの私には“自分がデビューしたらどうなるのか”や“その後に自分の人生”について具体的に考える余裕を持ち合わせていなかったのだ。
これが現時点で出せている「なぜAV女優になったか」の答えだ。
しかしながら、その結果は私が予想した通りにはならなかった。確かに見える世界は広くなったし、煩わしい人間関係とも距離を置くことができたが、全てが劇的に変化したわけではなかった。相変わらず私は私だし、環境を大きく変えたところで、本質的な部分はあまり変わっていない。ただ、心なしか自分の足で人生を歩けているような、そんな感触はあった。
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「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに