どの席に座るか問題【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』35品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」35品目
ただし、ウナギの寝床みたいに幅の狭い店で、客が座ると後ろを通るのが困難な場合は、奥から詰めたほうがいいとは思う。奥の人が帰るときは大変だが、そこは全力で椅子を前に引いて少しでも通りやすくするのが客としてのマナーである。
そういう店はだいたいカウンターのみだが、ある程度のスペースがあってテーブル席もあるような店でも、一人のときはカウンターがいい。行きつけの店だと、何となくお気に入りの席というのもできてくる。自分は電車や映画館の座席と同じく基本的に端っこが好きだが、そういう人は多いだろう。かの池波正太郎も端っこ好きだったらしい。
特に飲み屋だと、カウンターのほうが追加注文しやすいというのも利点である。私の場合、お酒のピッチが人様より速いため何度もおかわりすることになるのだが、「すいませーん」と言っても声が通らずテーブル席だと気づいてもらえないことが多い。今はボイトレ(『声が通らない!』執筆時に通った)の成果で意識すれば一応腹から声が出せるし、「すいませーん」より音韻的に通りやすい「お願いしまーす」を採用のうえ、挙手も併用しているのでまあまあ大丈夫ではあるが、何度も呼びつけるのも申し訳ない。その点、カウンターならお互い楽ちんだ。もちろん、一人でテーブルを占拠するのは申し訳ないという気持ちもある。
そういえば、しばらく前に新宿の老舗人気とんかつ屋で、4人掛けのテーブルに案内されたことがあった。ランチタイムには行列のできる店ながら、やや遅めの時間帯だったこともありすんなり入れたのはいいが、カウンターは満席でテーブルがひとつポッカリ空いていたのである。
込んでる店で4人掛けのテーブルに一人で座っているのは居心地悪い。あとから一人客か二人連れが来たら相席するにやぶさかではない。3人だったらちょっとつらいが、まあ我慢しよう……と思ってるところに3人連れ来た。が、店のおねえさんは「ちょっと今いっぱいなのでお待ちいただけますか」と言う。
これはますます居たたまれない。しかし、このとき実はちょっと前にカウンターの先客一人が食べ終わって退出しており、その席が空いていたのだ。そこで私はすかさず「そっち移りましょうか?」と申告。「よろしいですか? ありがとうございます」ということで、3名様は無事テーブルにご案内されたのであった。グッジョブ、俺。