小劇場はコロナ禍をどう乗り越えたのか? 「エンタメ不要不急」と言われた3年間【中村未来】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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小劇場はコロナ禍をどう乗り越えたのか? 「エンタメ不要不急」と言われた3年間【中村未来】

写真:PIXTA

 

 今年の5月より新型コロナは「5類感染症」に移行。それによってあらゆる制限が緩和された。「不要不急」とされていたエンタメ業界も活発化し、大規模な公演を各地で開催。近頃のコンサートでは歓声などの“声出し”もOKになった。

 しかし、メディアが報じるエンタメは、商業演劇が行われるような大劇場に関することがほとんど。客席数が100に満たない小劇場については、あまり語られることはない。小劇場はどのようにしてコロナ禍の3年間を耐えてきたのだろうか。当事者に話を聞いた。

 

■人がいない劇場はあっという間に朽ちる

 

 インタビューに応じてくれたのは、吉祥寺櫂スタジオ。劇団櫂の俳優が運営する芝居小屋であるとともに、演劇の公演を目的としたレンタルスペースとしても使われている。スタジオが設立して約30年。学生や社会人など多くの団体がここで芝居を上演してきた。

 

吉祥寺櫂スタジオ

 

  しかし2020年3月、緊急事態宣言が出たタイミングでほかの劇場同様、櫂スタジオも休業を決断。すでに公演が決まっていた団体への延期やキャンセルの対応に追われた。そのときの心境を櫂スタジオの真坂友和氏はこう振り返る。

  「劇場としては、来る団体さんやお客様に、危険がないようにするのが最優先でした。もちろん劇場のスタッフの安全も守らなければなりません。新規のお申し込みはストップし、芝居小屋としては完全にお休みすることになりました。一応、オンラインで生配信する無観客公演に関しては許可する方針だったのですが、お申し込みはありませんでしたね」

  状況をみながら再開のタイミングを探ったが、結局丸一年、芝居小屋として使われることはなかった。

  「人がいない劇場って、あっという間に劣化するんです。家と同じです。住む人がいないとすぐに朽ちてしまう。劇場を再開しても、もし照明が使えなかったり床が剥がれていたら、いよいよ人は戻ってきません。いかに劇場を維持するかが、休業中の私たちにとって最も大きな課題でした」

  しかし櫂スタジオにとって幸運だったのは、芝居小屋以外の使い方を事前に取り入れていたとだった。

  「コロナ禍になる前から、週に一回、テコンドー教室として劇場を貸していたんです。さらに7年ほど前からは、劇団櫂が主催する空手教室もこの劇場で行っていました。芝居小屋としてお休みしていた期間も、道場として利用できたことは本当に良かったと思っています」

  もちろん感染対策は万全にし、生徒数も規制した上でのこと。それでも人が来ることは、劇場を維持する上で大きな意味を持った。

 

吉祥寺櫂スタジオ

 

 しかし、いくら道場として営業していても、劇場としての主たる収益はやはり演劇としての利用。収益の減退はどう受け止めたのか。

  「たしかにあの時期は、演劇公演の利用ができなかったため収益にも影響がでました。でも我々には道場のほかに、国からの助成金や、メンテナンスの為の資金があったので持ち堪えることができました。3年以上続いたらさすがに厳しかったと思いますが」

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中村未来

なかむら みく

ライター

1988年生まれ。玉川大学芸術学部卒業。学生時代からライター業をはじめ、書籍や雑誌、パンフレットなど、ざまざまな媒体で執筆。現在は演劇をはじめとしたエンターテイメント関連の取材執筆が中心。ライター業とともに、舞台やラジオなどのシナリオライターとしても活動中。

■個人サイト『演劇ライター中村未来の長竹ノーバン!』

https://nagatake-nobound.com/

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