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「自分の子育ては間違っていないかどうか」を気にしてばかりいる親たち【西岡正樹】

「子どもを育てる」を再考する


自分の子育てがうまくいっているのかどうかを気にしている親たちがあまりにも多い。そう語るのは小学校教員歴45年の西岡正樹氏だ。「自分の子育てが間違っていないかどうか」。子どもを持つ親としては、時に不安になることがあるものだ。子どもは多くの人や環境との関わりの中で様々な影響を受けて成長していく。親や教師の責任だけではない。とはいえ、親や教師が子どもへ及ぼす影響は当然とてつもなく大きい。果たして、その責任の重さを感じながらも親や教師はどうやって子どもを支え、育てていくべきなのか? 


写真:PIXTA

 

 「私たちが子育てをしていた時よりも今のお母さんたちの方がうんと大変だと思います」。60、70代の方と話をしていると、よく出る話だ。そうだろうな、と思う。なんせ子育てOGOBの方々の現役時代は「親はなくとも子は育つ」と言われた時代の晩期。「腕白でもいい、丈夫に育ってくれれば」と声高に言えるようなシンプルな子育てが、まだまだまかり通っていたのだから。

 今の親たちは時代の潮流に合わせて、「子どもの人格を尊重しながら、子どもの幸せ(健康的な自立)を求めて、子どもを育てている」。にもかかわらず、「子育てはなかなか思う通りにはいかないものだ」と強く思い悩んでいるのだ。

 先日、以前勤めていた学校の同僚たちと子育てについて話しをした。子育ての苦悩や本人自身にしか分からない切実な思いを聞くことができた。

 以下に元同僚の教師、糸井さん(仮名)の話を紹介する。

 

◾️糸井さん(仮名)の話

  高校3年生まで聞き分けのいい子だったんです。反抗期なんて存在しないと思っていた矢先に起きたので、私自身も戸惑ったのかもしれません。娘が、高校卒業間近のある日、初めて連絡なしで門限過ぎて帰宅したんです。

 その時は、

「心配したよ。連絡だけは入れてね」

と伝えました。ところが、その後も連絡なしの帰宅が続いたんです。それが3回続いた夜に私は爆発しました。娘の帰りをリビングで待ち構え、娘に言葉をぶつけたんです。

「門限を破る以上に、連絡を入れないことは何よりの罪だ」

「連絡したらママは怒るでしょう」

「約束を破るんだから、怒るよ。怒られたくなかったらちゃんと連絡しなさいよ。ママは厳しいけど、きちんと連絡してくれれば何が何でもだめって言ったことはないよ。むしろ理解がある方だと思うけど」

「門限なしがいい。もう成人だし。心配しなくても普通に帰ってくるし」

 もう涙が止まりませんでした。娘にこんなに分かってもらえなかったことは初めてだったので、心がもう離れてしまったのかと。でも、私はさらに自分の思いを娘にぶつけました。

 「あなたにママが心配していることを分かってほしいわけじゃない。こちらの事情は関係なく帰宅時間を連絡してほしいと頼んでいるだけなの。それってそんなに難しいことなの? 成人か成人じゃないかなんて関係ない。あなたが何歳になっても、たとえ社会人になっても、この家に住む以上、夜ご飯はいるのか、帰宅が遅くなるのか、泊まってくるのか、それを伝える義務がある。それが、家族として同居して暮らす上での、最低限のルールじゃないの? それができないなら、どうぞ一人暮らしをしてください。門限廃止にはしません。あなたが、平気で夜中に平気で帰ってくるような人になることに、ママはどうしても協力したくないから!!」

 それだけ言うと寝室に逃避しました。悲しすぎて、数週間は気持ちも沈んで、娘の顔を見たくなかった。それでも、毎日ご飯をあげなければならない。これが親なの、とあらためて思い知らされました。

 それからまもなく、娘は大学生になったので、門限はあってないようなものになっているのが現状です。毎晩遊び歩いているようだけれど夜中に帰ってくるわけではない。「夜ご飯いらなくなった」とか、「帰りは遅くなるけど、夜ご飯は家で食べたい」とか、今は必ず前もって連絡するようになりました。

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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