「不安の埋め合わせ」で“居場所探し”に失敗する新入生や新入社員とは【宮台真司】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「不安の埋め合わせ」で“居場所探し”に失敗する新入生や新入社員とは【宮台真司】

「日本人の感情の劣化」と「怪しいネットワークビジネスの隆盛」


多様な価値観を持つ人間の集合体である「社会」は、普段は「法」の縛りによって均衡が保たれている。だが、本来自由であるはずの人間と法は、相容れないものであり、それゆえ人類は、法の縛りを一時的に解放する装置として「祭り」という舞台を用意してきた。そんな「祭り」の劣化から、日本人の感情の劣化を鋭く指摘する宮台真司氏の発言が、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(KKベストセラーズ)にある。昨今新入生や新入社員の不安につけ込んで再び広がりを見せる「怪しいネットワークビジネスの隆盛」にも共通するものがあるのではないだろうか。


写真:PIXTA

 

■日本人の「感情の劣化」が「インチキ仲間」を跋扈させる

 

宮台 昨今の若い人々は変性意識状態を経験する機会が乏しい。学園祭や運動会にせよ、地域の祭りにせよ、クソリベのせいで強度が下がりました。

 昔は地域の祭りに的屋(てきや)が出店して〈贈与〉を体現しました。女に射的をやらせると的に当たるまで弾を補給してくれたり、子供が風船ヨーヨーが取れなくて泣くと景品よりずっと大きな縫いぐるみをくれたり。ところが「ヤクザだから」と地域の祭りから的屋が一掃された。

 昔は、頭は悪いけど運動神経抜群の子が運動会で大活躍しましたが、「順位づけは差別だ」「競争より参加が大切」といった喧伝で、極端なケースでは皆が手をつないでゴールインというのを含めて運動会から強度が失われ、リレーや徒競走でも昔ほど子供が一所懸命走らなくなくなりました。

 こうした動きを主導したクソリベをどうしてくれよう(笑)。祝祭の基本は「逆転」です。タブーとノンタブーの逆転、頭がいいのが偉いと運動できるのが偉いの逆転……。逆転が変性意識状態を呼び込み、「法外」のシンクロをもたらし、 「仲間」を醸成するというのに。

 僕は祭り好きだから全国の祭りを回っています。岸和田のだんじり祭や諏訪の御柱(おんばしら)祭はとりわけ勇壮でしばしば死者が出ました。今日ではあり得ないけど、昔は祭りだから仕方ないという空気がありました。僕はそこまでは要求しないけど、耐えられない出来事がありました。

 十数年前の話ですが、だんじり祭で岸和田市役所の職員が大半出払っていたことに市民が抗議したのがきっかけで職員が処分されました。僕はTBS「デイキャッチ」というラジオ番組で「処分するんじゃない。だんじりの最中に市役所の窓口に行く市民がクズだ」と吠えました。

 昔は地域が「仲間」だったからそうした市民はクズだと名指しされた。集合的な「変性意識状態」の眩暈の中で、一人だけシラフの奴がいるのって何(笑)。あり得ません同調圧力批判は的外れ。クズのせいで「仲間」が空洞化するから、「インチキ仲間」の同調圧力が働く。

 伝統が空洞化したから伝統主義が跋扈(ばっこ)する。共同体が空洞化したから共同体主義が跋扈する。これは戦間期に社会学者マンハイムが指摘した図式です。こうした伝統主義や共同体主義が醸し出す「インチキ仲間」は、森友学園騒動や加計学園騒動に象徴されています。

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どうすれば愛しあえるの:幸せな性愛のヒント

宮台真司×二村ヒトシ 著

<目次>

はじめに あなたなら愛しあえる 二村ヒトシ

第1章 ほんとうの性愛の話をしよう

 

ナンパ師とAV男優

「母への恨み」と〈心の穴〉

女性が「うっすら病んでいる」世の中

男の〈インチキ自己肯定〉

男にもある「女性性」

男の名刺はペニスと同じ

なぜ男は素直にヨガれないのか

「変性意識状態」とは何か

「自分探し」より「自分なくし」

「法外」の共通感覚が支える性愛

政治と性愛は近代の特異点

享楽を奪われて正義に固執

制度よりも感情が重要だ

女は潮吹きよりハグが好き

AVの蛸壺化と勘違い男

快感の構造を侮るな

第1章 質疑応答編 61

Q 童貞脱出の方法を教えてください……

Q 女性がいま何に傷ついているのか分からない……

Q 彼女とのセックスでトランス状態にならない……

Q 女性をリスペクトすればするほど勃起しない……

Q セックスし続けても飽きない女性とは……

 

第2章 なぜ日本人の性愛は劣化したのか

 

「セックスレスの増加」と「精子の減少」

なぜ下ネタは話されなくなったのか

女が男を見極める3つの基準

なぜ若い人はセックスが下手なのか

メンヘラ女性とのセックス

アラサー以下の女性がメンヘラ化する理由

乱交とスワッピングの違い

性愛は自己承認のツールなのか

〈社会の劣化〉への鈍感さをもたらす〈感情の劣化〉

〈家族の劣化〉による〈感情の劣化〉

〈空洞的家族〉の再生産と〈性的退却〉

処方箋の鍵は〈空洞的家族〉を潰すこと

社会の中を生きるべく社会の外に出る

女性の性的ポテンシャリティ

〈感情の劣化〉から〈性的退却〉へ

なぜヒトラーはモテたのか

セックスはビフォア・アンド・アフター

「激しいセックスが好き」の意味

〈祭りのセックス〉から〈愛のセックス〉へ

「瞬間恋愛」とは何か

セックスとミラーニューロンの働き

第2章 質疑応答編

Q かけがえのない幸せを手に入れるのは困難……

Q 「性愛不全」は「身体性の欠如」も原因?

Q つきあってもいつも1、2カ月で別れてしまう……

Q AVを現実の世界と勘違いしてしまったら……

 

第3章 性の享楽と社会は両立しないのか

 

なぜ男の恋愛稼働率は女の半分なのか

社会の幸いと性愛の幸いの逆立

男の感情的劣化に対応する女

中動態の女と能動態の男の断絶

フェミニストvs オタク男子

『マッドマックス』と怒れるフェミニスト

社会が良くなれば「性愛的に」幸せになるか

「社会の物差し」対「性愛の物差し」

性愛でヒトはバンパイアに「戻る」

性愛を自覚的に損得から隔離せよ

「恋愛結婚」の誕生と「法外」の享楽

70年代の性解放とその後の展開

戦後もあった祝祭としての無礼講

先行世代の劣化で後続世代も劣化

恋愛における「真の心」の問題圏

あらゆる一目惚れは間違いである

「わいせつ」と〈なりすまし〉

昔の娼婦とAV女優の違い

「AV業界の社会化」が問題に

性のフラット化と「出演強要問題」

眩暈を排除せず包摂する統治へ

「損得」よりも「正しさと愛」だ

第3章 質疑応答編

Q 幸せなセックスを言葉で説明できるか?

Q チャットレディをやって罪悪感が残った……

Q 息子が幸せな恋愛をできるのか心配……

Q ダサいヤリチンばかりがモテるのはなぜ?

第4章 「性愛不全」から脱却する方法

 

エロい男は希少資源

メンヘラとヤリチンの共通点

「専業主婦廃止論」で言いたかったこと

相手の性愛願望にいかに応えるか

倒錯者というポジションをとろう

「良い変態」は社会の抜け道である

「委ね」「明け渡し」とヒモの資格

男と女はリバーシブルの関係に

女は詐欺師だから男よりも自由

「変性意識状態」を目指す

人間の性的エネルギーとAI

性教育とスクールカースト

第4章 質疑応答編

Q 自分が女性に何を求めているのか分からなくなる……

Q 女性が本当に性で解放されるにはどうすれば……

Q 恋愛のノウハウ情報が溢れていて正解が分からない

 

おわりに 〈なりすまし〉の勧め 宮台真司

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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