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「不安の埋め合わせ」で“居場所探し”に失敗する新入生や新入社員とは【宮台真司】

「日本人の感情の劣化」と「怪しいネットワークビジネスの隆盛」

 

■インチキ仲間を見抜けない不安な新入生・新入社員

 

 その意味でクソリベとウヨ豚は同一地平上にあります。この同一地平上のクズは、たとえば2002年日韓ワールドカップサッカーにおけるハチ公前交差点での「ハイタッチ」的な盛り上がりや、昨今のハロウィーンにおける同様な盛り上がりを、祝祭だと勘違いしがちです。

 祝祭の条件は﹇共同身体性↓共通感覚↓共有〈妄想〉﹈という具合に階層性をなす共通前提への信頼です。それが崩れて、ミクロにもマクロにも祝祭が不可能になりました。それによる不全感を埋め合わせるべく、最大公約数の口実を設けて動員したのが「ハイタッチ祭り」。

 そこには伝統的な祝祭につきものの「仲間」意識の継続がない。しかし仮にこの種の疑似的営みによって「仲間」意識の醸成に成功するなら、それこそレニ・リーフェンシュタール的なナチス五輪における全体主義的動員になります。僕はそこに漂うインチキ臭が耐えられない。

 ハナ・アーレントが指摘したように「仲間」と「インチキ仲間」を分けるのが同調圧力。インチキ仲間には同調圧力がつきものです。そこではインチキ仲間の中で座席を維持するために同調圧力に負けて行動や表現をしがち。背後に仲間外れを恐れる神経症的不安があります。

 構図は「鍋パーティ問題」。上京した不安な新入生が鍋パーティに誘われ、そこに居場所を見つけて安心する。すると「週末に研修会があるんだけど」と誘われ、当然断れずに参加して……。最初にどの鍋パーティに誘われたかで、どのセクトやカルトに所属するかが決まる。

 これらは全てフロイトやフランクフルト学派(フロイト左派)が言う「不安の埋め合わせ」で、「仲間がいなくても大丈夫、ネットで仲間が見つかるから」「恋人がいなくても大丈夫、アキバ系キャラに性的対象が見つかるから」という具合に共通の形式を神経症的に反復します。

 ならばAVじゃないが「疑似を見分ける(笑)」ために「正しさ」にこだわれよ。

(『どうすれば愛しあえるの:幸せな性愛のヒント』本文から抜粋) 

 

(著者)

宮台真司 みやだい・しんじ

社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。一九五九年宮城県生まれ。東京学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。権力論、国家論、宗教論、性愛論、犯罪論、教育論、外交論、 文化論などの分野で多くの著書を持ち、独自の映画評論でも注目を集める。著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(幻冬舎文庫)、『いま幸福について語ろう 宮台真司「幸福学」対談集』(コアマガジン)、『社会という荒野を生きる。』、二村ヒトシとの共著『どうすれば愛しあえるの』(KKベストセラーズ)など。

 

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どうすれば愛しあえるの:幸せな性愛のヒント

宮台真司×二村ヒトシ 著

<目次>

はじめに あなたなら愛しあえる 二村ヒトシ

第1章 ほんとうの性愛の話をしよう

 

ナンパ師とAV男優

「母への恨み」と〈心の穴〉

女性が「うっすら病んでいる」世の中

男の〈インチキ自己肯定〉

男にもある「女性性」

男の名刺はペニスと同じ

なぜ男は素直にヨガれないのか

「変性意識状態」とは何か

「自分探し」より「自分なくし」

「法外」の共通感覚が支える性愛

政治と性愛は近代の特異点

享楽を奪われて正義に固執

制度よりも感情が重要だ

女は潮吹きよりハグが好き

AVの蛸壺化と勘違い男

快感の構造を侮るな

第1章 質疑応答編 61

Q 童貞脱出の方法を教えてください……

Q 女性がいま何に傷ついているのか分からない……

Q 彼女とのセックスでトランス状態にならない……

Q 女性をリスペクトすればするほど勃起しない……

Q セックスし続けても飽きない女性とは……

 

第2章 なぜ日本人の性愛は劣化したのか

 

「セックスレスの増加」と「精子の減少」

なぜ下ネタは話されなくなったのか

女が男を見極める3つの基準

なぜ若い人はセックスが下手なのか

メンヘラ女性とのセックス

アラサー以下の女性がメンヘラ化する理由

乱交とスワッピングの違い

性愛は自己承認のツールなのか

〈社会の劣化〉への鈍感さをもたらす〈感情の劣化〉

〈家族の劣化〉による〈感情の劣化〉

〈空洞的家族〉の再生産と〈性的退却〉

処方箋の鍵は〈空洞的家族〉を潰すこと

社会の中を生きるべく社会の外に出る

女性の性的ポテンシャリティ

〈感情の劣化〉から〈性的退却〉へ

なぜヒトラーはモテたのか

セックスはビフォア・アンド・アフター

「激しいセックスが好き」の意味

〈祭りのセックス〉から〈愛のセックス〉へ

「瞬間恋愛」とは何か

セックスとミラーニューロンの働き

第2章 質疑応答編

Q かけがえのない幸せを手に入れるのは困難……

Q 「性愛不全」は「身体性の欠如」も原因?

Q つきあってもいつも1、2カ月で別れてしまう……

Q AVを現実の世界と勘違いしてしまったら……

 

第3章 性の享楽と社会は両立しないのか

 

なぜ男の恋愛稼働率は女の半分なのか

社会の幸いと性愛の幸いの逆立

男の感情的劣化に対応する女

中動態の女と能動態の男の断絶

フェミニストvs オタク男子

『マッドマックス』と怒れるフェミニスト

社会が良くなれば「性愛的に」幸せになるか

「社会の物差し」対「性愛の物差し」

性愛でヒトはバンパイアに「戻る」

性愛を自覚的に損得から隔離せよ

「恋愛結婚」の誕生と「法外」の享楽

70年代の性解放とその後の展開

戦後もあった祝祭としての無礼講

先行世代の劣化で後続世代も劣化

恋愛における「真の心」の問題圏

あらゆる一目惚れは間違いである

「わいせつ」と〈なりすまし〉

昔の娼婦とAV女優の違い

「AV業界の社会化」が問題に

性のフラット化と「出演強要問題」

眩暈を排除せず包摂する統治へ

「損得」よりも「正しさと愛」だ

第3章 質疑応答編

Q 幸せなセックスを言葉で説明できるか?

Q チャットレディをやって罪悪感が残った……

Q 息子が幸せな恋愛をできるのか心配……

Q ダサいヤリチンばかりがモテるのはなぜ?

第4章 「性愛不全」から脱却する方法

 

エロい男は希少資源

メンヘラとヤリチンの共通点

「専業主婦廃止論」で言いたかったこと

相手の性愛願望にいかに応えるか

倒錯者というポジションをとろう

「良い変態」は社会の抜け道である

「委ね」「明け渡し」とヒモの資格

男と女はリバーシブルの関係に

女は詐欺師だから男よりも自由

「変性意識状態」を目指す

人間の性的エネルギーとAI

性教育とスクールカースト

第4章 質疑応答編

Q 自分が女性に何を求めているのか分からなくなる……

Q 女性が本当に性で解放されるにはどうすれば……

Q 恋愛のノウハウ情報が溢れていて正解が分からない

 

おわりに 〈なりすまし〉の勧め 宮台真司

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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