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国内初のM&Aプラットフォーム「TRANBI」生みの親に聞く新規事業創出の秘訣

 「VUCA」とも言われるように、先行きの予測が困難な現代。日本経済においては、中小企業の後継者不足、イノベーション不足による競争力低下など、さまざまな課題が顕在化している。グローバル化やテクノロジーの進化により、これまで当たり前とされてきた経営手法、価値観の変革を迫られることも少なくない。その中でも、独自の戦略で成長を続ける企業が存在する。それらの企業は、どのようなビジョンを描いているのだろうか。先進的な取り組みを行う企業のトップに取材を実施し、混迷の時代を生き抜くヒントを探る。

 みなさんはTRANBIというM&Aプラットフォームサービスをご存知だろうか。SNSや広告等でもよく目にする機会が増え、M&Aプラットフォーム業界では国内最大級のユーザー数を誇る注目のインターネットサービスである。この事業、元は長野に拠点をおく、1971年創業のアスクホールディングスという昔ながらの日本の製造業から生まれた、いわゆるウェブ系の新規事業であるということに大変驚いた。長い歴史をもつ同社では、主要事業として、世界シェア50%・国内シェア90%を誇る接着用ゴムシート「アスナーシート」をはじめとする工業資材の製造・販売を手がけているという。そんな工業資材という業種に特化した企業と思いきや、それ以外にも、多種多様な事業展開をしているのが同社の特色だ。先に述べた、TRANBI以外にも、2023年時点で14事業を展開するなど、多角化経営を実践しながら、創業以来黒字経営で成長を続けるアスクホールディングス。多角化経営の秘訣や起業・事業承継の観点から見た日本社会の課題など、幅広いテーマについて、代表取締役社長 高橋 聡氏に熱く語っていただいた。(BESTTIMES編集部)

アスクホールディングス株式会社 代表取締役社長 高橋 聡氏

 

■アスクホールディングスの独自性とは  「企業内起業」

主な工業資材製品(アスクホールディングスHPより抜粋)

 

 アスクホールディングスは、1971年に研磨剤商社として創業した会社です。基幹事業である工業資材関連事業においては、異種材料の接着用ゴムシート「アスナーシート」をはじめ、さまざまな工業資材を提供し、現在は半導体関連部品を中心に、製品開発や製造加工から販売まで、一貫して手がけています。商品にも特徴がありますが、それ以上に大きな特徴として、多角化経営に取り組んでいることが挙げられます。2023年1月時点では、主力の工業資材事業を含む、14事業を展開しており、健康食品・美容製品の販売から、外国語講座や太陽光発電まで、事業のジャンルは本当にさまざま。長野市内では、大手喫茶店「コメダ珈琲」のフランチャイズ店舗も経営中です。新規事業創出には創業以来注力しており、「会社の中で起業する」イメージで、毎年多くの社員が新しい事業を生み出しています。

■アスクホールディングスの独自性2:「竹林経営という多角化戦略」

主な事業内容(アスクホールディングスHPより抜粋)

 

 当社は「100事業100幹部の竹林経営で100年企業を目指す」というスローガンを掲げています。この竹林経営という多角化戦略を実践するメリットは、経営基盤が安定する点にあります。事業をポートフォリオ化でき、個々の事業は挑戦的でありながらも、会社全体で見ると、景気の波による影響を受けにくい経営体制の構築が可能です。実際に私たちは、自己資本比率80%を維持しながら、創業以来50年にわたって黒字経営を継続しています。逆に言えば、安定した財務基盤があるからこそ、斬新な事業にも挑戦できる。事業ジャンルの選定基準は「法律と人の道に反しないこと」という1つのみです。年齢や経歴に関わらず、多くの社員が自由な発想からアイデアを生み出し、新規事業創出に挑戦しています。

■アスクホールディングスの独自性3:「新規事業は遊び」

 私は、アイデアを事業という形に落とし込んでいく中で欠かせないのは、「遊び」だと考えています。日頃から若手社員に伝えているのは、「本業の仕事は8割。残り2割は遊び感覚で、自分がやりたいことに挑戦してほしい」ということ。「遊び」がなくなり「仕事」だけになると、どうしてもつまらなくなってしまう。決して不真面目という意味ではなく、遊び感覚を持ち続けるからこそ、創造性や、アイデアが生まれます。今のオフィスは、社員一人ひとりが遊び心を持って事業を生み出す、楽しい人材が集まるインキュベーション施設のようにしたいと思っておりますし、現にそのようになっていると感じています。

 ちなみに、今でこそM&Aプラットフォームのジャンルにおいては一定の認知を持つTRANBIですが、10年前の立ち上げ当初はユーザー数も登録案件数も増えず、大変だった時期もありました。もし仮にですが、遊び感覚ゼロで仕事という観点から営業成績を管理するようなやり方をしていたら、途中でくじけて辞めてしまって、今のTRANBIはなかったのかもしれません。立ち上げ期ならではの様々な苦労がありながらも、楽しみややりがいを見つけながら継続して続けてきた結果、あるきっかけを機にユーザー数が急速に拡大したり、あるいは顧客の満足を感じたりすることで事業は継続していけると思いますので、やはりその感覚は間違っていないのだなと実感しています。

■新規事業生存率3%の戦い、そして人材育成の鍵

アスクホールディングス株式会社 本社

 新規事業の立ち上げや運営には、本当に失敗がつきものです。私が入社した2005年時点では、6つの事業がありました。それらは創業以来挑戦してきた約200事業の中で生き残ったもの。つまり生存率は約3%しかありません。今ある事業の背景には、多くの失敗が存在しているわけです。大切なのは、失敗を恐れずに挑戦し、失敗を糧とし、次のチャレンジをすることです。その考え方は、人材育成にも投影されています。新たな取り組みを進める際に、社員一人ひとりが“経営者”の視点にたって、一から事業を作り上げることになるのですが、その結果、社員がみずから率先して考えるという、いわゆる“やらされ仕事”では得られない貴重な経験を積むことができます。たいていの事業は、アイデア出しからリリースまでの道のりは容易ではありませんが、たとえ難しいと思われる事業でも、頑張ってリリースまでたどり着いてもらう。そうすることで、失敗を含めた、経験を積み重ねられるわけです。もちろん一度で成功するに越したことはないですが、挑戦しようと思う社員に対して、ダイレクトに「失敗の経験を積ませる」ということ自体、プラスのことだと考えるマインドも大事にしています。なぜなら当社自身が190以上の事業に失敗してきたので、若い社員がひとつ失敗したからといって、社員を叱ったりはできませんから(笑)。年齢やキャリアは関係なく、若手社員にも新規事業を任せ、事業立案から実行まで丸ごと一任して経験を積んでもらうことが、社員の成長につながると考えています。過去10年間で新卒離職率ゼロというデータには、若手社員がそれぞれのやりたいことに挑戦し、成長できる風土が現れていると思いますね。

 

■後継者問題、起業家育成の土壌。M&Aという選択肢。

 私は2005年にアスク工業株式会社へ入社し、その数年後に父から会社を引き継いだという経緯があります。経営者となって目の当たりにしたのは、長年お付き合いしていた会社が、後継者不在を理由に次々に廃業していく様子でした。100年以上の社歴を持つ株式会社の社数が世界で一番多いのが日本です。少子高齢化の加速によって、後継者不足を理由に廃業してしまう会社がさらに増えるだろうと問題意識を持ちました。そのような会社を誰かが引き継ぐことで、新しい挑戦ができる仕組みを作れたら。そう思ったことが、TRANBI創業の原点です。ただ物事そう簡単ではなく、設備やノウハウ、人材など、起業に必要な環境は揃っているにも関わらず、起業というアプローチをとる人がそれでもまだまだ少ないように思います。あくまで一因としてですが、人と異なる考え方や挑戦を許容しない、日本社会や教育のあり方があるかもしれません。強い同調圧力を生み、その中にいると、どうしても「人と違うことはやらない」という選択肢が正しく思えてしまいます。

 政府もスタートアップ推進を掲げるように、スタートアップ、起業家、そして事業イノベーションが求められる時代であることは明らかだと思っていますが、本当に変えていかないといけないのは、マインドの部分や周辺環境といった要素だと思います。失敗を許容する風土について、当社では経験の積み重ねによりそういったカルチャーは確実に浸透してきておりますが、あくまで一組織の中の話に留まってしまいますので、社会変革に至るようなインパクトを起すことは大変難しい現状があります。

 そこで取り組んでいる新しいアプローチが、コミュニティ化です。

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