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「いい作品を作り続ける土壌を守るため」インボイスに反対する声優たちが見た現実

インボイス制度が導入されたら声優の3割弱が廃業を検討しているとも・・・

 

 2023年10月に開始される予定のインボイス制度。現在真っ向から反対を表明している団体の一つが「VOICTION」である。「VOICTION」は声優たちが集まって「インボイス反対」の活動をする団体だ。実は声優がこうした政治的な活動をするのはリスクが大きい。

 クライアントであるアニメ業界からは「政治的な意見を言わないでほしい」といった要請があったり、ファンから「政治的な話とか聞きたくない」という声が出たりするからだ。そうした声がありながら立ち上がったのは「いい作品を作り続ける土壌を守るため」であった。危機感を持って活動しているのだが、世間の反応はまだ鈍い。

 そこで今回はVOICTIONに参加している声優の皆さんに改めて活動状況などについて話を聞いてみた。

今回取材に応じてくれたのはこちらの3名である。

〇咲野俊介

イーサンホーク、パトリックウィルソン等の日本語吹き替えを担当。アニメ「pet」桂木役、「ピンポン」ドラゴン役等多数

〇甲斐田裕子

「ワンダーウーマン」シリーズ主人公ダイアナ役の日本語吹き替えを担当。アニメ「SPY×FAMILY」シルビア・シャーウッド役等多数

〇西森千豊

「スノーピアサー」ハビエル役日本語吹き替えを担当。アニメ「ゲッターロボアーク」ゴズロ役等多数。声優ワークショップ「Voice will-ボイスウィル-」の代表として、後進の育成にも努めている

 声優としてリスクがあるのに、どうしてインボイス反対の政治活動を始めたのか。それを知ってもらうことで、彼らの思いがインボイスを知らない誰か一人にでも届いてほしい。そんな思いで取材を依頼したのである。

 

Q.VOICTIONの現在の活動状況についてお聞かせください。

甲斐田:昨年は与野党問わず国会議員に陳情に行っていましたが、今年に入ってから市議会議員や区議会議員といった地方議員を中心に陳情しています。 メンバーそれぞれが自分の地元の地方議員へアクションする形です。意見書もしくは陳情書で国へプッシュできないか模索しています。4月の統一地方選を見据えて、インボイス制度を考えるフリーランスの会(通称「STOPインボイス」ライターなどによる市民団体)などと連携し、全国の自治体に意見書を出す活動も始めています。

 

Q.VOICTION結成前に個人でインボイス制度反対の声を上げたことはありますか?

甲斐田:2021年に知ってから同業者に話をしていましたが、当時はまだ制度の認知度もすごく低くて反応が薄かったのを覚えています。それでもチラシを配ったり、Twitterで投稿したりしていました。その後STOPインボイスで名前を伏せながら活動する期間を経て、「これだけではダメだ」と思い勇気を出してVOICTIONを立ち上げました。

西森:僕は自分の活動の一環としてブログやTwitterをやっているのですが、インボイス制度を知るまでは政治的な発言はしてきませんでした。業界的に政治の話はタブーみたいなところがあって…… 公の場で政治に触れるのはリスクが大きいんです。でも、去年の参院選のときにインボイスのヤバさを知って、個人で発信するようになりました。

咲野:私は元々同業者が引くくらいSNSで政治的な発言をしていて、インボイスについても発信していました。そんな姿を傍から見たら「反政府声優」に見えるでしょうが、自分ではそう思っていません。敢えて言うなら「疑政府声優」でしょうか。どこの党が政権を取ったとしてもスタンスは変わりません。国民が現状を把握すること、声を上げることが大切だと常に思っています。

 

Q.では実際にVOICTIONの活動を始めてからのお話をうかがいたいと思います。政治家へ初めて陳情した時はどのようなお気持ちでしたか?

甲斐田:VOICTIONとして行ったのは、自民党の山田太郎参議院議員赤松健参議院議員が初めてですね。何から話していいか分からず、当時作っていた要望書を5分くらい延々と読みました。とにかく「この人たちにこちらの思いを伝えるんだ」と必死だったのを覚えています。

西森:人生で永田町に通い詰める日が来るとは思っていませんでした(笑)。まず議員会館に足を踏み入れたことがない。入り方もわからないし、手荷物検査も厳重で驚きました。僕が初めて陳情したのは共産党の田村貴昭衆院議員だったんですが、すごく優しかったんです。親身に話を聞いてくれるし、インボイスも反対だと言ってくれたので、今思うとすごくラッキーでした(笑)。でも何回か重ねていくと、議員にもいろんな考え方の人がいるというのがわかりましたね。

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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