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ポストコロナ時代の就職活動 大学生と教員たちの終わりなきケモノ道


限界集落立ち並ぶ某公立大学の中堅教員。頭狂大学では上が詰まって出世できなくなり、凶授にしてやるから行って来いと片道切符を持たされたが「学生の9割は地元志向」「仕事の9割は大学内の雑用」「提案する研究の9割は予算不足でペンディング」という悲しみの中で今日も強く生き。査読で他人の論文のアラを探すのは得意だが自分が仕上げる論文は進まない、と語る凶授が見た「地方大学生就活」の舞台裏アルアルとは・・・


ポストコロナ時代の就活する大学生たち(イメージ:PIXTA)

 

 修論博論の受理と、辛く厳しい試験監督の時期が終わると前途ある学生の皆さんの進路相談の季節がやってきます。

 ご存じの通りコロナで大学が閉鎖されてほぼ3年、いままでオンラインでしか話したことのなかった学生と息の届くところで話をするのは非常にご無沙汰なんですよね。学部ならもう3年生、修士ならもうそろそろ博士進学しようかというところで「はじめまして」と話すことになるのは恥ずかしいものです。

 私の勤める大学で言いますと、研究室では企業さんから依頼された研究開発を産学連携で取り組むのが半分、もう半分が所定の研究で国家から「やれや」と言われてなきながら取り組む研究です。おカネがないんですよ。本来なら「私はこういう研究実績がある人間なので、こういう研究がしたいです」といっておカネを戴くのが筋なのですが、どういうわけか都落ちしてこの大学に来てから取り組んでいるのは海外の研究者との共同研究ばかりで日本国がせっかく渋沢栄一さんを一万円札にしたのにまったくこちらには来てくださいません。何故なんでしょうね。

 学部生に関して言えば、本来は私のいる学部の卒業予定者の皆さんだけを相手にするべきところ、どういうことなのか分かりませんが実際には全学卒業生を担当させられています。何と言いますか、やらなければならないことに対して、まず人員と予算が圧倒的に足りていません。また、理事はいるんだけど、役に立たない教授が割り当てられていると、何とかこなせる教員のところに仕事が集中してしまいます。いや、理事になっている他の教職もいるのですが、いやその何というか、コロナで人間が壊れたというか、人を人として扱えないというか、とても「本学の教授です」とは申し上げられないようなお人柄の皆さんでありまして。危機対応の都合から、不肖私に「全部やれ」とパワハラ学長が全部押し付けてきて、週末はほぼ徹夜で面談や動向書類を書くことになっております。

 コロナで大学に満足に通えない学生さんには申し訳ないと思っているのですが、大学に満足に来られなかったので人間が破綻してしまった教員も実はたくさんおります。ひょっとしたらこれを書いている私も人間が壊れているかもしれませんが、まだ人とそつなく話はできるし研究も雑務も可能なのでそこまはイカレてはいないと思います。たぶん。

 しかし、人と対話をしないことで壊れない教員はいません。もともとコミュ障でどうしようもないなと思っている同僚でも、本当に人が来なくなってコミュニケーションができなくなると、まず曜日の感覚がなくなり、さらに人間は横柄になります。呼ばれたので研究室に出向くと「何で来たのだ」と怒る教授まで出ます。あんたが私を呼んだんだよ。

 そんな感じなので、まともな社会人や研究者を送り出すはずの大学において、その大学で教育に携わる教員がまともではないという事態が深刻になります。学長や理事会、教授会以下職員さん含めた学校組織も「まだこいつはまともに見えるから」という消極的な理由で、大学にとっては商品そのものである大学卒業予定者と、商品を買ってくださる先の各企業様とを繋ぐ営業の役割を、営業なんかしたことのない私ら研究者にドンと任せるんですよ。

 それで何が起きるかというと、まず私が徹夜で仕事をするようになります。大変です。というか、徹夜しなければならないのは、まともな教授がいないことと、大学に予算がないので雑務をやってくれる事務員を雇えないこととが理由です。死にながら仕事をしています。先日、別の公立大学では大量の雑務に耐えかねた教員が院生さんを無休で働かせたり、よりによってリエゾンから来た研究費をそっちにねじ込んだりしたのがバレて、ひっそり山陰某大に左遷されていました。まるでシャブに手を出したかのように石もて追われてしまったのですが、でもよく考えたらそんなものを卒担理事だから全部やれと押し付ける大学側の問題なんじゃないのかとも感じます。きっとそうだ。

 また、これと並んで学生側からも、企業側からも、苦情が全部いっぺんにこちらにやってきます。学生さんはよく言います、「大学は何もしてくれない」と。おう、何もしてないともよ。なんてったって、初めて会う学生さんの成績や論文の概要を徹夜で流し読みながら「ここなら雇ってもらえるんじゃないか」って勝手に想像してマッチングするんだからね。最近では大学側が「これは」と思う学生さんを有力企業にご紹介する窓口みたいなものもあったんですが、ご承知のようにあれは大学側がやりたいことではなく、企業に良い学生を送り込んでよい顔をしたい就職業者が斡旋してやるものであって、私らからすると手間ばかりかかって嬉しくないのが本音です。潰れてしまえばいいのに。

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