安倍元首相殺害の原因を勝手に決めつけ、誇大妄想的な自説を展開することに大義名分はあるのか?【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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安倍元首相殺害の原因を勝手に決めつけ、誇大妄想的な自説を展開することに大義名分はあるのか?【仲正昌樹】

 

■統一教会と安倍氏はじめ自民党議員との関係とは

 

 しかし、私の知る限り、少なくとも統一教会の幹部クラスは、同じ信仰を持っていない自民党の議員や保守的な財界人、言論人を本当のところ信用していなかった。都合が悪くなったらいつ切り捨てられるか分からないとびくびくしていた。統一教会の支援を受けていた議員の側も、下手に切ると、支援を得られなくなるだけでなく、それまでの関係を暴露されるかもしれないので、厄介な連中だと思っていたろう。

 安倍氏自身はさほど選挙の心配はなかったろうが、祖父の岸信介元首相が、勝共連合の創設に協力して以来の付き合いがあったので、深く考えずに、統一教会系の新たな政治団体である、天宙平和連合(UPF)に応援メッセージを送ってしまっただけのことだろう。「天宙」という統一教会用語を冠した政治団体に、応援メッセージを送るというのは、元信者である私から見てもあまりに軽率だが、それをもって、安倍氏が統一教会の隠れ信者であるかのように言うのは飛躍である。宗教団体と深く関係のある政治団体に応援メッセージを送ったら、その宗教の“信者”になるのであれば、自民党議員の多くは、仏教系・神道系の複数の宗教団体の信者をかけ持ちしていることになってしまう。ましてや、統一教会が安倍氏などを背後から操って、日本のディープ・ステイトと化しているかのように言うのは、妄想による陰謀論だ。

 アメリカ大統領選やウクライナ危機をめぐる陰謀論がそうであるように、巧妙な陰謀論には若干の事実が混じっている。当事者も認めている事実を、確認されていない“真実”と面白おかしく結び付けて、大げさな話に仕立て上げる。旧統一教会の“指令”によって、自民党が、重要法案を旧統一教会に都合のいいように作り変えたことを示す具体的な証拠などないはずだ。千歩くらい譲って、(私がいた頃よりもずっと勢力が小さくなった)旧統一教会に自民党を動かす力があったとして、それを創価学会や、日本会議などの神道系の政治団体が黙認するだろうか。宗教は全てうさんくさい、全部まとめてつぶれたらいいくらいに思っている適当な人たちにとっては、みんなグルになっているとしか思えないかもしれないが。

 霊感商法問題などで激しく批判された統一教会と近い団体に応援メッセージを送ることは、首相を経験した与党の有力者として適切な行為なのか、とピンポイントに批判するのであればいいが、それにいろんな断片的情報をくっつけて妄想を膨らませ、統一教会を中心とした“宗教連合”による影の支配のような話を作り、それを前提にアベ叩きをするのはひたすら不毛である。どっちがカルトか、と言いたくなる。「宗教」との何某かの関係があると指摘すれば、それだけで批判したことになると思い込むのは、日本の左翼のダメなところである。

 

文:仲正昌樹

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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