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【紛争取材の経験が通用しない地・ウクライナ】報道カメラマン・横田徹が見た戦争最前線とは!?《後編》

写真:横田徹/NSBT Japan

■横田徹、ウクライナの最前線へ

 

ーーさて、横田さんはウクライナでジョージア部隊の従軍取材をしたわけですが、彼らと最前線を訪れてみて、どんな発見がありましたか?

「今回の従軍取材はジョージア部隊と一緒に行動したのが5日間、そのうち目の前はロシア軍という本当の最前線にいたのは1日だけです。繰り返しになりますが、危険な場所で命を落とすリスクを最小限にするためには、そこにとどまる時間をできるだけ短くするしかないんですね。本当はもう1日、最前線にいるつもりだったのですが、マムカ司令官からも『お前死ぬぞ』と言われ、さすがに危険すぎると思い断念しました。

 私が訪れた最前線はウクライナ中部の都市・ドニプロから南東に行った辺りで、戦線としては比較的安定しているところです。それでも十分に危ないのなら、東ウクライナの激戦地はどれほどの地獄なんだという話です。

 最前線で感じたのは、ロシア側のドローンに発見される恐怖感ですね。SNSなどではウクライナ軍のドローンの活躍が多く見られますが、ロシア軍だって使っていて、しかも向こうは長距離射程の兵器が豊富にあります。部隊の位置を特定されたら砲爆撃を受けるかもしれず、実際に取材中にも近くへ砲弾が落ちたことがありました」

ーージョージア部隊と5日間行動を共にして、どのようなことを感じましたか?

「兵士としてプロフェッショナルだなというのはもちろんですが、それ以前に気のいい奴らだと思いましたね。

 戦地では自分、1日6食くらい食事をするんです。それだけエネルギーを消費しますし、毎食が下手すれば最後の晩餐になるかもしれないわけで、とにかく味わって食べるんですが、そこでカフェなんかで一服して、さて金を払おうかと思うと、周りの部隊の人たちが『トール、ここは俺が出す』と払ってくれたりするんです。

 こちらとしては資金を持ってきているわけだし、戦っている人におごってもらうなんて気がひけるのですが、気にするなと言うんですね。こんなことはこれまでの戦場ではありませんでした。基本、何から何まで自分で払うのが当たり前で、たかってくる奴も普通にいましたから。

 そもそもジョージア人たちだけでなく、ウクライナ人もとにかく親切なんですよ。私が出会った人たちだけなのか、みんななのかは分かりませんが、自分がジャーナリストだからとか日本人だからというのは関係なく、彼らは困っている人を助けるんですね。戦時中で一番困っているのは自分たちのはずなのに。

 たとえばウクライナに入国したばかりの時、ガソリンスタンドで食料を買い込んでおこうとしたら、地方だったせいかドルは受け付けないと言われたんです。両替できる場所もないし困ったなと思っていると、後ろにいたおばさんがドサドサっと食料をカゴに入れて、持っていきなさい、お腹すいているんでしょと言うんですよ。この時はまだ初めてのウクライナ入りで、頭の中にあったのはシベリアで会った酔って銃をぶっ放すブリヤート人たちのイメージ。ウクライナ人も彼らに近いのだろうかと想像していたので、本当に驚きました」

ーー事前の思い込みと違っていたことも相まって、戦火の中にある国で人情に触れて感動があったと。

「ですね。そしてそういう優しさはありつつも、人々の戦意は高いんですよ。そもそもウクライナ国内に残っているのは腹をくくっている人、出国禁止の対象となる年齢の男性、あとは逃げるにも行く当てがない人たちです。

 中にはもう戦争をやめてくれという人だっているかもしれませんが、祖国を侵略されて怒りに燃えている人、ロシアに勝つ気でいる人々の方が圧倒的に多いように思えました。もうみんな空襲警報くらいでは驚かなくなっていて、戦争を日常として受け止めている感じもありましたね」

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御堂筋あかり

みどうすじ あかり

ライター

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

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